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弟の背中には羽根がある。某デュオの曲名みたいだが、
本当の話だ。信じられない?こっちも信じたくなかった。
俺の弟には天使の羽根が生えている。
昔から色んなものに好かれやすい奴だとは思っていた。
かといって、そんなものにまで好かれるとは思わないじゃないか。お菓子に釣られて日曜礼拝に行ったかと思えば、背中にそんなものをつけて帰ってきたのだ。ショタコンなん?あいつ。
いつも通り一緒に風呂に入った時、痣のようなものを見つけた。おそらく、羽根の生え際だったのだろう。
それから弟は『天使』のような子になった。
もともと優しい子ではあった、困った人が居たら助けずには居られない。それで学校を遅刻して怒られる損な奴。
そんなだから、つけ込まれるのだ。得体の知れないモノに。
『天使』
高一のある時、いつも通り弟が善行を積んでいたら見知らぬ老婆が弟の手を握って言った言葉。
ガッと後ろから頭を殴られた気分になった。
もう猶予は残されていなかった。弟の手を引っ張った。
そこからは、あまり覚えていない。
シャワーの音と弟の泣き叫ぶ声、まだ声変わりしていない高い声が掠れるのが痛々しくて、未だに兄に助けを求めようとするお前が滑稽で可愛そうだった。
完全に覚醒したのは全てが終わったあとだった。
四肢をぐったりと投げ出した弟をベッドまで抱きかかえて体を清めた。
夥しい量の朱と白が、壮絶さを思い知らされる。
いっぱい泣かせてもうたなぁ、明日声枯れてるんちゃうか。
行為に対しての反省はあれど、後悔は全くなくて。
ひっどい兄ちゃんやなぁと我ながら思った。
背中に手を伸ばす。こんな行為の後なのに、真っ白い羽根は穢れることなく、神聖さを帯びている。
俺なんかがなんかしたところで関係ないんだろうか。
ごめんなぁ悪い兄ちゃんで、もう一個傷つけるわ。心の中で謝ってから、綺麗な羽根をちぎって呑み込んだ。
本当は羽を切断出来ればよかったが、どこにくっついてるかも分からないし、それを切ったことで弟に何かあったらと思うと出来なかった。
羽根はわたがしみたいに口の中で溶けていった。
甘くて、罪の味とはこれかと思った。
ぱちりと弟が目を開く。何を言ったらいいのか分からず、口を噤む俺に弟はキスをした。
「おはよう、きみくん」
その日弟の声変わりが始まった。
『神様へ
先日は厄介なプレゼントをありがとう。
後で弟と半分こして食べました。二人で食べると
もっと美味しかったです。
追伸 お前なんぞに弟はやらん。』
作者の自我コーナー
いつものパロ。
これぐらい独占欲が強いと思っています。あと自分に見えないものは信じない方なので、神様に対してもこんなんだろうなと
一緒に罪を背負うふたりです一蓮托生。
あなたは太陽みたいな女です
明るくて、痛いくらいに眩しくて、真っ直ぐで。
そして過去しか見れない。
1度たりとも私はあなたの今を見ていない。
あなたは太陽のような女です。
出会った瞬間、私は太陽を失った。
私の太陽はもう既にいないと言うのに、空は何も知らずに
綺麗に晴れ上がっていて、それにたまらなく腹が立った。
太陽は残酷だ。
『快晴』
作者の自我コーナー
夏が近づくと思い出します。私が見つけた時には既に死んでいたけれど、映像の中でも分かるほどあなたは私の太陽で。
あなたみたいな声や性格の女が現れたとてそれは私の太陽ではないんです。残酷な女だよ貴女は。
メビウスが吸いたくなってきたな、嫌煙者だけど。
僕らの棲む地球のある太陽系がある銀河系(天の川銀河っていうらしい)には2000億個の星があると言われている。
でもその銀河だって1000億個以上あるんだって。
分からないよね、凄いってことしか。
そのうち僕らが肉眼で見れる数は8600個。だけどこれは全地域ででの話だから、本当に僕らが日本で見られるのはその半分くらい。そして一際明るい星1等星は21個しかない。
何が言いたいかって?ちょっとした自慢。
そんな中、僕が僕の一番星を見つけたってこと。
一般的には、あまりパワーがない方になると思う。六等星。
でも僕には人一倍輝いて見えた。命を燃やしている姿に心惹かれた。キラキラというかギラギラ、むしろメラメラ?
かっこよくて綺麗で時折、儚い。だけど強い。
もっと輝けるように、曇ってしまわぬように護りたい、支えたいと思った。
そんなお星様が遠くに行ってしまう。
僕はその輝きを僕だけのものにしてしまいたかったけど、六等星のままで良かったけれど、仕方がない。
彼が一等星になりたいというのなら、きっと僕じゃ力不足だ。
でもどんなに遠くに行っても、光が弱くなっても僕は絶対に。あなたを見ているから。
どこに行ったって探し出してみせるから。
そんな僕の決意をお星様は『きっしょ』と目元をクシャりとさせて笑った。
『遠くの空へ』
作者の自我コーナー
一番星は一等星と違って決まった星ではないので、同じ星を認識している訳ではないわけですね。私も私の一番星はどこにいたっていつだって分かります。それが私の誇りです。
彼から飯に誘われた。これがイレギュラーひとつめ。
サシ飯なんて何年ぶりだろうか、それも彼から声をかけてくるなんて。俺の名前を呼ぶ声が上ずっていて、なにか嫌な予感がした。
悲しいかな俺たちは気軽に飯に行けるような関係では無い。
昔はそれなりには気軽だったけれど、いつしか仕事以外で二人きりなんてそんなそんな……という間柄になっていた。
仕事もプライベートもほとんど一緒だったから、お互いうんざりしてしまって、声をかけなくなってから数年。もう、プライベートの距離感を忘れてしまっていた。
そんな彼が俺を飯に誘う、というのはそれはもうよっぽどのことがあったのだろう。天と地がひっくり返るくらいの。
店に着いてからというものメニューも頼まずソワソワしている。ふぅ、と息を吐くとお冷を一気飲みして俺と目を合わせる。イレギュラーふたつめ。
「俺、近々結婚するわ」
嫌な予感的中。めでたい話に、『嫌な』はないか。
確かに天地がひっくり返るくらいよっぽどの事だった。俺にとっては。
ずっと好きだった。恋愛感情なのか友愛なのか、家族愛に近いものなのかは分からないが、好きだった。でも別にどうなりたいとかはなく、このまま仕事仲間で居れればいいと思っていた。幸せになってほしいとも思っていた。
結婚式の司会は任せとけ、くらいの気持ちだったのだ。
でもいざ言われてみると、何も出てこない俺がいた。
おめでとうも言えなければ、相槌すら打てなかった。
ノーリアクションなんて人前に出ている人間の端くれとして1番やっちゃいけないことだ。なにやってんねんとバリバリ仕事モードの俺が頭の中で叫ぶが、何の反応も出来ない。
喉に何かが張り付いたみたいに苦しい。息が出来ない。
様子のおかしい俺に彼が慌てて声を掛ける。
「大丈夫か?」
もう口に出してはいけない言葉が喉に引っかかっている。なんとかゴクリと飲み下して、大丈夫、おめでとうと言った。苦しかったからか涙が出てきた。
(愛してたなんて今更)
『言葉に出来ない』
作者の自我コーナー
いつもの。ですが珍しく失恋エンドです。
これがイレギュラー3つ目かな。
お弁当を用意し終えて、場所取りをしている男たちの所へ向かう。
「おう、ひな!」
こっちだと手を挙げて、音量設定が出来ていない声で幼なじみが私を呼んだ。既に赤ら顔だ。
レジャーシートの重しのように酒瓶が置かれており、もう何本か空き缶が転がっている。
花より団子ではなくうちの所は花よりポン酒、らしい。
周りは親子連れが多いというのに、うちは昼間っからご機嫌な酔っ払いばかりだ。
「ひなちゃあん、おかずなにぃ?」
ふわふわした声が上から降ってくる。かなりしっかり目に体重をかけてくるのは義弟。じゃれつくのはいいが重い、体格差を考えてほしい。
「からあげとだし巻き玉子。あときんぴらさんとウインナー」
「やったぁ、おれひなちゃんのからあげすき〜」
「だから作ってきたのよ」
「ねぇちゃん、おにぎり俵型?」
「具はなあに?」
「んもう、弁当箱開けて自分で確認し!」
弁当箱を置くとそこに群がる。さすがの食い付きだ。
そして、もう弁当なんて入らないほど飲んだくれたおっさんどもの方に行く。
「おつかれ、ひな」
「誰のせいで疲れてると……ええご身分で」
「はっはは、ぐっすりやろ?よっぽどおつかれやねんやろな」
目線の先には一升瓶を抱いて荷物に持たれて眠る私の旦那様。
口開けて寝てるはるわ、よだれ垂れてる。
よだれが垂れていてもだらしなくても綺麗な顔は綺麗で少しずるい。この年齢にしてははしゃぎすぎな金髪に桜がくっついているのも腹が立つほど似合っている。
「んぅ…ひなぁ?」
「あんた、桜にモテモテなんはいいけど、攫われんといてや」
「せやったら、ひなちゃんが離さんとってやぁ」
そういうと私の足に頭を乗っけて、またくうくうと寝息を立てる。
「離れられへんわ……こんなん」
桜を剥がすように彼の髪を撫でた。
私も花より男子やわ。
『春爛漫』
作者の自我コーナー
いつものパロ。お互いベタ惚れ。