本当に苦しい時、胸が痛くなる。辛くて辛くて、しんどくて、「なんで、どうして私だけ」とムカついて、他でもない自分に対する怒りが私を強く殴る。
苦しむ人を前にすると、人はよく言う。
「話してごらん?」と。
話したところで何になると言えば、
「吐き出したら、楽になるかもよ?」と言う。
ふざけるなよ、話すためにはまず全部を思い出さなきゃならねぇんだ。それが、どれだけ苦しいか。
話し終わると大体の人が言う。
「そう、よく話してくれたわ。今までよく頑張ったわね。」と。
うるせぇよ、お前に、私の何が分かる。そういうのは、人を助けた気になって、優しい言葉をかける自分が優越感に浸りたいだけだろ。良い人に、なりたいだけだろ。
あぁ、まただ。胸が痛くなってきた。その痛みを解消する方法が泣き叫ぶしなかいってのも皮肉なもんだ。
叫ぶ。
喉が、いたい。
#My Heart
漫画の主人公のように、かっこよくなりたい。それこそ、全身全霊をかけて誰かを守り抜くような。体を張って誰かを守って、誰かの為に怒ったり泣いたりできるようになりたい。
誰かに言われた。
「ないものねだりだな」
…確かにそうだ。叶いっこない。こんな僕に誰かを守るなんて、守られてばっかの僕にできっこない。
誰かが言った。
「でも、今まで守られてきたと思うなら、守り方は分かってるんじゃない?」
…そう、だな。守り方は知ってる。なら、僕は、一体、誰を守れるというのだろう。
また同じ声が聞こえた。
「あなたを今まで守ってきた人は、きっとあなたに笑顔を見せていたはず。じゃあ、その人の背中は、見たことがある…?」
ない。守ってくれていたあの人は、僕に背中なんか見せずに、いつなんどきも大丈夫だよと笑ってくれていた。
あの人の声が聞こえた。
「大丈夫、大丈夫だよ。きっと、大丈夫」
その時、僕は初めてその人の背中を見た。息を呑んだ。
あぁ、そうか。この人は、僕に大丈夫だよ笑うと同時に、いく千もの矢が刺さる自分にも、大丈夫だと、言い聞かせていたんだ。
僕は言った。
「僕はあなたを、全身全霊をかけて守り抜きます。だからいつか、僕を漫画の主人公みたいだと褒めてくださいね」
ないものねだりも上等だ。叶いっこないと守られてばっかの自分を変えられるのは、自分だけだ。大丈夫。きっと、大丈夫だ。
#ないものねだり
「なんかさ、嫌いなものほど目に入るくない?」
「分かる」
突然母が言い出した。全くもってその通りだ。例えば、母子ともに大っっ嫌いなクモ。なんかもう、足が無理。
そのクモが廊下にいたりすると、友達とどんだけ話が盛り上がってても動体視力がMAXになって
「クモッキモイッイヤァァァァァァァァァァァァ」
って反応をしてしまったり。
「多分、あれよね。嫌いだからこそ警戒心が高くて目に入ったり、料理に嫌いな食べ物があると一口で分かったりするんだろうね」
「クソッ、どうせなら好きな物だけ見てたいぜ…」
#好きじゃないのに
吾輩は猫である。名前は無い訳もなくクロなのだが、近頃飼い主の表情が晴れん。何やら洗濯物が乾かず、生乾きの匂いが酷いとか…心配して損した。
何はともあれ、飼い主がなにか隠してるのは明白だな。それがなんだろうと知ったこっちゃないが、吾輩を拾ってくれたあの日の、陽の光のような笑顔が、飼い主にないのは見るに堪えないのだ。きっと、この降り続く雨が原因なのだろう。
…もしかしたら、吾輩が奪ってしまったのかもしれんな。飼い主のあの笑顔を。他ならぬ吾輩が、拾われる前、梅雨の雨が辺りを濡らし、薄暗いじめじめした所で生きていたのだから。
返すよ、飼い主。お天道様は、こんな薄汚ねぇ黒猫の上なんかより、お前さんの上にある方が、よっぽど良いや。
さよならだ、世話になったな。
吾輩は、雨でぬかるんだ庭を走り抜けた。
久方ぶりに飼い主の屋敷に日が昇った。あぁ、やっぱりそうだったんだな。だが、屋敷に飼い主の姿が無かった。一体、何処に…?
「探したぞ!クロ、おめぇどこ行っとった!!」
「ニャ?!」
そこに居たのは、紛れもない飼い主だった。梅雨のような雨が降りしきる吾輩を、傘をさし、下駄を汚して、髪と着物を濡らし、息を荒くして、ずっと、探しておったのか。
「ほら、帰るぞ?猫は風邪ひいたらシャレにならねぇんだよ」
そう言った男の顔には、まるでお天道様のような陽の光を放つ笑顔と、一匹の黒猫が、頬を擦り寄せていた。
全く、バカな飼い主だ…。
#ところどころ雨
推し。
この一言に限る。
私の推しはみんな画面から出てこないし、どれだけ好きを叫んでも届くことは叶わない。でも、そんなことはとっくに嫌という程わかっている。オタクと言うだけで軽視されるのも痛感した。
それでも、私は推しを愛している。
推しは、家族とも友達とも違う、異次元の特別な存在。
苦しい時、慰めるでもなく、そっとしておくでもなく、ただ変わらずそこにいて、勇気をくれるのは、間違いなく推しだった。たとえ画面の向こう側であったとしても、推しが笑っているだけで、それだけで、涙なんて吹っ飛ぶ。
#特別な存在