酸素が足りない!足りない!
早く海に戻らないと…
あぁ、陸で溺れるなんて…
もがく、あがく、つんざく悲鳴
苦しい!苦しい!苦しいぃ!
人魚姫は、時間制限が来てしまったので海に帰らなくてはいけません。
途中で、サンダルを落としてしまいました。
でも、私にはもういらないの!
駆ける、駆ける、駆ける
恋に落ちたマーメイド
恋心ひとつ、陸に捨てて
海に飛び込んだ。
きっと私は眠り姫。恋という名の甘い毒で眠りについてしまう。
だから、アナタのキスで私を起こしてね
酸素が足りないわ。
早く、私に息を頂戴
ふっと微笑んだ人魚姫
海の奥底、誰にも気付かれずにそっと
泡になって消えた。
君は私の席に無断で座ってくる。
最初はなんとも思ってなかったけど、今はただイライラする。
しかも、私以外の女と話すために使ってるの?
倦怠期ってやつ、なのかもしれないけれど、飽きてしまって別の子と遊んだのは私だけど…
自己中だと罵ってもらっても構わない。私は君が私以外の人間と喋ってることが許せない。
いつもだったら、私のところに来るのに…今はあの女と肩を組んで頬をつつきあっている。
「前髪のうねりやばくね?」「それな〜」
なんて私にはわかんないような内容。
私じゃ、つまんなかったのかなぁ…
どの友達もしっくり来ない。
私は、君だけ…ただ、君だけなんだ。
私が1番じゃない君なんか大っ嫌いだよ。
だから、私の隣に戻ってきて。
願わくば、その関係が永遠に続くよう…
タイムカプセルの中に
絶対見るなって書いてある手紙があった。
10年前の自分の思考なんて読めない。
手紙を開いてみると
見たな?
って書いてあった。
ただ、それだけの話。
国語の時間。
「短歌を楽しみましょう。五・七・五・七・七のリズムで…──────」
欠伸を噛み締める。これだから昼飯後の五限は嫌いなんだ。
隣の席は休み…だから、その隣の席の人間が丸見えだ。どうやら彼女は欠伸を隠す気はないらしい。
前の男子はうるさい男子だが、周りに仲が良い人間がいなくてつまらなさそうだ。
まるで私がつまらないと言われているようでかなり良い気はしないが。
後ろの席とその隣の席の男女の仲睦まじい声。小学校が同じだというがその様子はまるでカップルだ。
つくづく腹が立つ。
あ、寝始めた。まああの子は先生のお気に入りだから怒られないはず。一命を取り留めたね。
前の男子も船を漕ぎ始める。前まであんなにうるさかったのに…ええ!ええ!つまらなくてごめんなさいね!
短歌を作るのが楽しみなんじゃない。短歌を作って褒められるのが楽しみなんだ。
先生の話を右から左に流しながら板書する。あ、教卓で見えない。
特別眠気なんてないけれど、徐に目を閉じてみる。
推しと一緒に…なんて、妄想とかイタい真似はするつもりはない。だけど、ある種妄想をしてみるのだ。
もしも、ある女の子と親友ではなく恋人になっていたら?
どうせそれはただの思い違い。動悸なんてないのに。
これは同性愛者への冒涜だ。
これ以上は掘り下げないでおこう。
進学校に入学するにつれて、色んな物を捨ててきた。
同時に、色んなものに気付かされてきた。
自分の愚かさに、嫌でも気付かされた。
そうだ、妄想。この妄想がいちばん多かった。
もしも、全てやり直せるのならば…
まるでどこぞの名探偵だ。精神だけ今の状態のままでやり直してみたい。映画良かったよ。
そしたら、きっと無双ができる。わからないところなてきっとなくて…いいや、今でも算数はどうも苦手だ。
頭の中で音楽が鳴り止む。…つまり残りの授業時間は五分だ。
「…と、いうことです…ええっと、あと5分ですね。中途半端ですが…──────」
ジャスト。残り時間、どう乗り切ろうか。
うっすら目を開ける。寝ていたあの子は未だ起きない。
一方前の男子は体を揺らしぽやっと前方を見つめる。どうやら起きたようだ。むすっと退屈そうに唇を尖らせている。
後ろの男女は静かになった。ほう、年中無休で話しているわけではないのか。まあ、さすがにね。
窓の外を見る。眩しい、青。
青い青い、空。
──────太陽が二度と昇らないような心地がした。
目の焦点が合わない。どこか一点を見つめたくても、そこから目を逸らす。
見たくない見たくない見たくない見たくない…
まるで夜だ。暗闇に突き落とされて、右も左もわからぬ孤独の夜だ。
最愛の梨里が死んだ。
もう、目を開けないのだ。
あの黒曜石のような慈悲深く、時に鋭い目はもう開かない。
あの瞳が嬉しそうに細まることも、そこから涙が溢れることも二度とない。
輪廻転生?ふざけるな。
神など信じちゃいない。だって、神がいたならばそもそも梨里は死んじゃいない。
きっと梨里の方が夜の最中なのだろう。
瞼を開くことが出来ずに、暗闇の中ぽつりといる。
明るい光が見えたと思えば、灰になって欠片もなくなる。
梨里は、最高の生涯をおくることができたのだろうか。
お願い梨里、目を覚まして…
雫が零れる。
零れて、梨里の頬に流れる。
梨里、泣いてるの?
ううん、泣いてるのは、僕。
『この星もいつかは消える。私と同じように。
始まりがあるものはきっと、終わりもあるものよ。
会者定離…会うものは必ず、別れる運命にあるの。
だから、この月だっていつかは消えるの。
どれだけ暗闇に突き落とされたってね…
明けない夜はないのよ。』
…嗚呼、梨里
「──────もうすぐ、夜が明けるよ。」