つまらないことでもいいから君に笑ってほしい。
目が覚めるまでに、辛いこと全部なくなってないかな。そしたら少しは頑張れそうな気がする。
ずっと頑張れないのに、そんな簡単に頑張れないか。
ダメ人間がやるバイトも、半分も進んでないレポートも、文化祭の練習も、前進も後退もしない恋人との関係も、何もかも全部。
まだ起きてるんだから頑張らなきゃ。
頑張れないよ、なんて思いは口には出さない。
ただでさえダメな人間なんだから。弱音なんて吐いたらもっとダメになる。屑みたいな人間になるから、だから
頑張らなきゃ。
ずっと、病室にいる。
小さい頃からずっと。
ママとお姉ちゃんたちの顔を見るのが辛くなってくる。
お見舞いなんて来なくていいよ、私が悪いから。
そんな事言えずに今日も面会の時間を待つ。
ドアのノック音。
「どうぞ」
久しぶり。
そう言って君はベッドの横の椅子に腰掛ける。ゴミ箱に捨てられた私の抜け落ちた髪を一瞥して。
「今日学校は?」
君は少し頬を膨らませる。
「いつも行ってないみたいに言わないでよ。今日からテスト期間なの。」
それはごめん。
「そうなんだ」
それから少し君と話をした。
少しずつ強まってくる吐き気。
思わず唾を飲み込んだ。
「体きつい?」
取り繕うこともできなくて小さく頷いた。
「見ないで」
こんなところ君に見せたくないから。こんな見苦しくて汚いとこ。
「わかった。ナースコールだけ押すね」
そっとナースコールが押された。
君は出ていく。
安堵からかベッドを汚した。
ゴミ箱間に合わなかった。
看護師さんが入ってきた。
早く、楽になりたいな。
明日、もし晴れたらたまには君のところに行こう。
外は嫌い。
うるさいし、目が痛いし、肌に触れる風でさえ苦しくなる。
「大丈夫?」
その優しい声も俺なんかじゃなくて、もっと他の人のために使ってよ。
優しくしないで。
「大丈夫」
あとから否定できたら楽なんだろうな。
あなたは俺が大丈夫じゃないのもわかってる。
これは『一人でいたい、大丈夫じゃない』を言えるようにする練習。
言えるようになるまで終わらないというあなたの言葉を思い出した。
「家帰ろっか」
嫌われた?
俺がずっと言えないから。
「うん」
バイクのエンジン音に泣きたくなる。
そんな大きい音出さないで。
家に着いて、あなたは自分の家のようにソファに座る。「さっきのバイクの音、大丈夫だった?」
「うん」
俺はあなたの隣に座って顔を見れずに答えた。
どう声をかけたらいいか分からなくて袖を引っ張った。
「どうした?」
「外、疲れた。」
絞り出した声は頼りない。
「うん」
それでもあなたは聞いてくれる。
「うるさくて、目痛くて、頭ガンガンしてる」
あなたはずっと耳を傾けてくれる。
「だから、一人でいたい」