一輪の花。
それは庭に咲いていた、珍しくも無いお花、それを優しくとり、花瓶に指した。
意味なんてなかった、何も無い、ただ、少しでもつらさを間際らしたかった。
すると、徐々に幸せだと感じられる日々が続くようになった。
何故だ、このお花のおかげなのか? それなら、沢山お水をあげよう、優しく育ててあげよう。
そして、何Lもの水をかけ続けた。
当然花は枯れた。愛を注ぎすぎた。その後悔からマイナスなことを考えるようになって、それと同時に幸せもどこかへ飛んでいってしまった。
いいことがきっとある
そう思うことで隣合わせの小さな幸せを見つけられていたのだろう。
それなのに、ここで気づいてしまった。
まだ数年しか生きていないと言うのに、今。気づいたんだ。
どうか、
純粋だったあの頃を返してください。
「良いお年を」
と、意味を添えて
「あけおめ!」
って、連絡が来るけど、去年まで送ってくれてた子が送ってくれなくなって、
悲しくなって、新年早々嫌なことが起きてしまった。
深く深く、落ちてゆく。
深海の海に落ちていく。
これは、感情の持ったクラゲの話――
「ねね! 死んだら何になりたい?」
少し変わった友達が言ってきた。学校へ向かう道。
「死んだら……? うーん―― クオッカとか」
「クオッカ……? なんで! 私はね! 海月がいい!」
「あははっ! 病み垢かよ!」
「病み垢? 海月になりたいだけで病み垢なの?」
確かに……。海月は感情がないから海月になりたいとか、星になりたいとか言う人は沢山いて、それを聞いて心無い言葉をなげかけるネット民を沢山見てきたから私はそう言った。でも、なんでそうなったんだろう。自分が何になりたいだろうが勝手だし、別に痛くも感じない。
「……まあいいや! てか、クオッカって世界一幸せな動物だもんね! かわいいね」
「ごめんね。病み垢とか言って」
「別に気にしてないよ。ふふ」
なんだか、嫌な空気になってしまった。
「海月ってさ、本当に感情、ないのかな」
「感情……。どうだろ。脳みそがないからないんじゃないの?」
「ほんと、おかしなこと言うけど聞いてくれる?」
私がそう言うと、友達は首を傾げて聞こうとしてくれた。
「私、みんな寝てる時は海月なのかもって……思う」
「え?」
「寝てる時の自分は、何も考えてないでしょ? 何かあるとしたら、夢を見る。寝言を言う。寝相の良し悪しがある」
「……つまり?」
「寝相ってクラゲの動きなのかなって。感情のない海月ながらに動こうと藻掻いてたりして? とか考えちゃうの。死んだ時だって、みんな海月になって無の世界を彷徨ってる」
「なんだか……難しいね……。まあ要するに、寝てる時、死んだ時、みんな海月になってるってこと?」
「うん……、まあ、そうなったら辻褄合わないしおかしいから違うともうけど、こう考えると楽しくない? 寝てる時、死んだ時の自分を知れたみたいでさ」
「……まあね」
落ちてゆく。57分前まで海月だった私の死体が――
時を告げる。
また、テストの点数は九十点まで届かなかった。
ノー勉だと言っていた女の子は全て九十九と百を行き来した点数。
悔しかった。
どうしても勝てなくて、目が腫れるほど泣いて、でも泣きながら勉強して。
強くなるどころか弱くなっていく自分。
何度も過去の自分が書いた自分への手紙を読み返して心を落ち着かせる。
社会を明るくする運動、読書感想文が入賞したって意味ないんだよ。そんなの夏休みの宿題のひとつなんだから。
作文がかけても、国語は得意ではない。
数学ができても自分で考えて新しい解き方をする頭もない。
新しい解き方を生み出したとしても、逆に面倒になる。
英語が何となくわかったって、喋れないしなんとなくだ。
ピアノが引けたって、音楽の点数は四十四点。
出来ているようで、出来ていない私。
ダメダメな時期が続いている。今年もだ。
その数年の一年に入っている今。
親愛なる推しの言葉を聞いて勉強を頑張るよ。
嵐が来ようとも、わたしの幸せは持っていかせない。
最近、ずっとずーっと幸せなんだよ? 貯めてたお金で化粧品を買って、ヘアケア用品も買った。スキンケア用品もね。肌荒れが治ってきたし、髪の毛も理想に近づいてるんだから。
去年できなかった、旅行の後のお泊まりも今年は出来る。私、幸せなの。
お願いだから、幸せのままで生きさせて欲しい。
――そう願った二日間。
でも、夏休みが開けたら、テストが待っていて。
私、一回目の学力テストで14位だったの。そしたら三者面談でね。
「次は1桁めざしてね」「部活に入っていないので、リーダーとかやらないと、部活をやってる子との差が埋まりませんよ」「漢検と英検受けようね」「期待してるよ」「〇〇さんは、リーダーが向いています」「他の子との交流が少ないですね〇〇さんは」「他の子と比べたら大人ですよ」
全部全部怖くて、やりたくなかった。嬉しくなかったよ。
リーダーなんてやりたくない。できない。大きな声も出せないのに、向いてるわけないじゃん。
――雷が凄かった。
雨も凄かったなあ。
そんな夏まつりの帰り道。
面談で話されたことについて母は口にした。
「リーダーが向いてるって言われたんだよ」
そういった時、さっきまで楽しかった夏祭りの屋台の灯りが、他人の心に咲いた明かりのように思い出した。
笑顔もなくなって、嫌そうにしていた私を見た姉が言った。
「嫌なら嫌って断りなよ?」
嬉しかった。心に寄り添ってくれた。いつも寄り添ってくれるのは姉だけだった。
苦しいし、もう辞めたいし、死にたいし、でも楽しいことも少しだけあるから死ねないし、勉強しなきゃだし、でもやりたくない。
――やっぱり、嵐が来ようとも。
普通でいさせて欲しい。