浜辺 渚

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3/22/2025, 4:00:26 PM

そこは東北の海沿いの村で、大きな2つの山の麓を覆うように広がっていた。10歳の吉郎は村1番の厄介者で、痴呆に惚けては、村の人に折檻を喰らっていた。
「こんな何もねえ村じゃあ、どうやったって楽しくないんだ。ちょっと盗みをしたり、落書きするぐらいは許されて然るべきじゃ」と吉郎は口を曲げて呟いた。
「吉ちゃんや。この村はすごく恵まれているんだよ。海と幸に山の幸に囲まれて、食料に困ることは無いし、過去に自然の災いが起きたこともない。吉ちゃんは何も無いって言うけどね、他の村と比べたら本の流通や芸者さんのお越しだって多いんだよ」と村の人が言った。
「そんなのちっとも面白くない!」そう言うと、吉郎は村のハズレにある自宅に帰っていった。
吉郎の両親は彼を村に産み残し、都会の方へと逃げてしまった。そこで、村の人たちが協力してここまで吉郎を育ててきた。

吉郎は家に帰ると、縁側に寝そべり、ぶつぶつと文句を言っていた。縁先にある夾竹桃が左右に揺れるのを目で追いつつ、その奥にある枝折り戸を視界に捉えていた。
「逃げよう」とふとそう思った。
「そうだ、ここに居て寿命を迎えるよりは、旅先で餓死した方がマシだ」
そう思えば、直ぐに枝折り戸から家を飛び出し、橋を渡り、山道を登っていった。何の計画もなく出てきたが、お腹がすけば山菜でも取ろうと考えていた。幸い、どの植物が食べれて、どれが食べられないのかの区別は出来ていた。
1時間ほど歩き続けると、でこぼこした尾根の細道に出た。眼下には霧にまぎれた村を一望することが出来た。もう、こんなところには帰ってこないと決心し、「バイバイ」と叫んだ。

3/21/2025, 3:22:10 PM

当時、僕は野鳥観察に熱心だった。直子とのデートでも、自然公園に行っては、よく一人で野鳥観察に夢中になっていた。

「鳥のどこがそんなにいいのかしら」
「鳥が良いと言うよりは、バードウオッチングという行為に惹かれているんだよ。手に届かないものを必死に追いかけ回すって所が気に入っている」
「そう?なんでもいいんだけど、今はデートの最中で、私はあなたの彼女であるということは忘れないでね」
「もちろん」

その日の暮れには、近くの川に行き、山に沈む太陽を2人で眺めていた。紙芝居の夕暮れのように、それはハッキリとした輪郭を持っていた。陽光を浴びた彼女の顔はそこはかとない侘しさを秘めていた。

3/20/2025, 1:44:47 PM

君と手を繋いだ事を思い出した。君の干からびたフランスパンのような感触の手は、当時の私にとっては何よりも心強かった。決して、裕福とは言えない暮らしだったけど、その欠落はむしろ僕たちを十分に満たしてくれていた。それは、あえて白黒の下書きで描き切るのを辞めた現代アートのようだった。

3/19/2025, 3:22:22 PM

私は今自分の足がどこに接地しているのかが分からないんです。地面に着いてるような気もすれば、遥か高い雲の上に着いている気もする。薄志弱行の私には次の1歩を踏み出す勇気が無いため、今の自分の立ち位置が分からないままなんです。あなたは私のことを甲斐性がないと叱咤しましたが、全くその通りだと思います。私は窮鼠のように噛むことも出来なければ、狐のように誰かの威を借りる高慢さすら持ち合わせていないのです。虚心坦懐を志しても、行き着く先は頑迷固陋の優柔不断。あぁ、もう私はダメなんです。

3/18/2025, 4:23:21 PM

空が大好きだ。どれだけ荘厳な山々を見ても、秀逸な絵画を眺めても、空には叶わない。空を見ていると、今自分が立っている地に畏怖を与えてくれるし、それは同時に憧れをも感じさせる。

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