ツィーと画面上をなぞる指先。
とあるアイコンでピタリと止まった。
自分はこのアイコンを押せないでいる。
いや、指は普通に動くんだ。
ほら、他のアプリならちゃんと押せる。
好きなゲームなら速攻だよね。
でもこれだけは……なんだか押せない。
謝罪文と、それに添えられた申し訳程度のスタンプ。
やっぱり、対面で謝るべきだったかなぁー……
〜開けないLINE〜
羨ましかった。
完璧な君が。
僕なんか、凡人中の凡人なのに。
取り柄なんて、なんも見つからないよ。
だから、羨ましかった。
みんなから囲まれる君が。
……だから、僕は君を――
〜不完全な僕〜
シトラス。
フローラル。
オリエンタル。
私が惑わしてきた香り。
私を惑わしてきた香り。
「あなたと一緒がいいから、私も買ってみたの」
「○○のために、自分もこの香水を買ったんだ」
そこに愛情なんてない。
全てはお金目当て。
そんな目的をもくらませる、刺激的な香りがもっと欲しかった。
私だけを見つめてくれるような香りが、本当は欲しかった。
〜香水〜
行動で示して欲しかった。
言葉で愛を伝えられたって、私には聞こえないんだから。
他の女性とは違うんだから。
……私は、私はもっとあなたと沢山触れ合いたかった。
手を繋いだり、ハグしたり。
さらに先のことだって。
……私が期待しすぎたのかな。
ごめんね。
別れたい、なんて言葉求めてなかった。
そんなこと言うくらいなら、
今すぐにでも泣き出しそうな私のもとへ駆けつけて、抱きしめてほしいよ。
〜言葉はいらない、ただ・・・〜
君だけが大雨の世界にいたんだ。
本当に、君だけが。
すっぽりと切り抜かれたように。
僕は快晴の青空が広がっている世界。
この時、僕は初めて『雨女』というものを見た気がする。
あまりにもずぶ濡れだから、思わず声をかけた。
「あの、折りたたみ傘ありますけど」
だけど彼女は無言だった。
前髪が長く、表情が隠れている。
すると彼女は踵を返し、ゆっくりと歩き出し、どこかへ行ってしまった。
僕はずっと不思議に思いながら、家でボケっと過ごしていた。
そんな時、ふとチャイムが鳴り響いた。
慌てて立ち上がり、玄関の方へ向かう。
ドアを開くと、そこにはさっき見かけた女の人がいた。
それも雨が降っていない状態で。
「あれ、傘は――」
「……いい」
「へ?」
「いらない。私が欲しいのは、」
か細い声で呟くと、彼女はギュッと僕を抱きしめてきた。
そして上目遣いでこっちを見つめてきた。
澄んだ空のような綺麗な瞳が、じっとりと濡れた髪の間から現れる。
「私が欲しいのは、あなたのような『晴れ男』なの!」
……え。
えぇー!?
……これがとある『晴れ男』と『雨女』の衝撃的な出会いである。
〜雨に佇む〜
〜突然の君の訪問。〜