ふわり、ふわりと空を飛んでみたい。
みんなよりもずっと高い位置で、自分たちが暮らしている街を見てみたい。
あとは純粋に、自由気ままに空を飛んでみたいってのもある。
風に乗って、高く高く舞い上がっていく。
……あぁ、どんな感じなんだろう。
とにかく、飛んでみたい。
夢でもいいから。
〜風に乗って〜
そっと目を閉じた刹那。
ふと、脳裏に過ぎるのは、あなたの素敵な笑顔。
たくさんの喜怒哀楽の思い出。
ふんわりと香る、甘い香水の匂いが好きだった。
大きな手で、私と手を繋いでくれた時も、
広い背中におぶってもらった時も、
全部全部が大好き。
この最期まで、一緒にいられて良かった。
ぎゅっと手を握りしめてくれて嬉しい。
他の人に目移りしないでね?
私だってしないんだから。絶対。
いっぱいの愛情を全身に、今私は新たな世界へ旅立つ。
〜刹那〜
「私に生きる意味なんてないよ」
幼なじみの彼女はヘラヘラと笑いながら言った。それは僕がちょうど昼食を食べているとき。周りがガヤガヤしていたのに対して、その言葉だけはハッキリと聞こえた。「どうして」と、問いかけてみる。すると、牛乳の紙パックを片手に、話し始めた。
「自分が、分からなくなっちゃったんだ」
「自分が……分からなくなった?」
「そう。この先の行く末を見いだせないの。ほら、私達もう高三じゃん?なんかさー、特にやりたいことがないって言うか」
「そんなの、今からでも見つければいいじゃないか」
「んー、言っちゃ悪いけど、面倒くさい。なんならまだ、消えた方がマシな気がする。どうせ、最後にはみんないなくなるんだから」
ね、生きる意味なんて無いでしょ、と屈託のない笑みを浮かべる。僕はその笑顔を見て、何だか裏がある気がしたけど、何も言い出せなかった。
〜生きる意味〜
善い行い、悪い行い、それぞれ基準がある。
でも、人によって、感じ方は違うから、
その基準だけを頼りに生きていくもんでもないと思う。
〜善悪〜
「あっ!ママ、見て!ながれぼし!!」
自分で淹れたコーヒーを片手に、ぼうっと夜の一息を着いていた時。愛おしい私の娘が、嬉しげにはしゃいでいた。窓にべったり張り付いて、まるで樹液に集まるカブトムシのようだ。ふふっと笑いながら、ソファから立ち上がる。
「ママッ、ながれぼし、もう行っちゃった」
残念そうに呟く。しゅんと頭を垂れて、悲しげな表情をしている。願い事を言えなかったのかなと思い、私はそっと頭を撫でてあげた。
「そっかぁ……ながれぼしさん、バイバイしちゃったのね……」
「うん……ママのおねがいごとも、きいてもらいたかったのになぁ」
私の願い事。思わずビックリして、「えっ」と声を漏らしてしまった。この子には沢山迷惑をかけてきたのに。お父さんがいない生活で、色々我慢させていたと思うのに。なのに、私のことを……
「――ママのお願い事は、もう叶ってるよ」
こんなにも可愛くて愛おしい娘がいるのだから。これからもずっと一緒にいることができるのなら、もうこれ以上の願い事はないわ。
〜流れ星に願いを〜