あの子が公園の砂場でお城を作って笑っている顔。
私の帰りを待って、玄関に飛び出してきて、はしゃぐ姿。
お散歩の時、ぎゅっと手を握る動作。
そんな何気ないことが、私にとって幸せだった。
だがそれは、一瞬にして崩れ去る。
……今日は嫌な夢を見たわ。
もう一度眠りにつきましょうか。
今度はあの子のどんな夢が見られるのかしら。
どうか、夢の中だけでも、幸せな結末を――
〜夢を見てたい〜
ずっとこのまま、時が止まってしまえばいいのに。
だって、大好きなお兄ちゃんと一緒にいられるから。
離れ離れにならないためにも。
忘れたくないから。
時が永久に止まればいい。
ずっとこのまま、時が続いたらいいのに。
だって、大好きなお兄ちゃんはもういないから。
離れ離れになるためにも。
忘れたいから。
時が永久に続けばいい。
〜ずっとこのまま〜
「……あ、雪だ」
暗い夜の公園。ただ一人、ぽつんと街灯が俺を照らす。スポットライト、なんてか輝かしい言葉、俺になんて似合わない。
「今日で3日」
愛しの犬・ポチが亡くなってから。……どうして俺の犬が。大切に真心込めて世話して、一緒に暮らしてきた犬が。片手に冷たくなったコーヒー缶を持ち、ため息を着く。
「俺が周りから心を閉ざしている時に、お前と出会って、変われたんだ」
前、とある仕事場で働いていた時、人間関係でゴタゴタして心を病んでいた時があった。でも、ダンボール箱に入ったポチを見て、拾ったが最後。
「――自分の命に踏ん切りつけようとしたのにさ、ポチがいたせいで、出来なかったじゃねぇか」
コーヒー缶を持った手が小さく震える。
今日は一段とさみぃや。早く家帰って、写真のポチに「ただいま」って言わねぇと。
〜寒さが身に染みて〜
自由に、なんでも出来る成年。
自由を求め、羨ましがっている未成年。
果たして、どっちが幸せなんだろうか。
〜20歳〜
「ねぇ、××……今日は空に三日月が昇ってるよ。きれいだね」
そう言っても何も返ってこない。ただ、そばにはいるんだ。安らかに眠っている君が。
……いったい、いつになったら戻ってくるんだい? 僕だけ生きているのは辛いよ。寂しいよ。君と一緒じゃなきゃ――
『お前は、俺がいなくたって大丈夫だ』
「――!」
『周りを見てみろ。昔とは違うんだ。今のお前の周りには、たくさんの仲間がいる。だから、生きろ〇〇。そして、また明日も、平和に――』
なんて声は、すうっと僕の耳を通り、身体中を巡った。そして最後に、聞こえた。
俺がいつまでも見守っておいてやる。俺が見れなかった分を、お前が見るんだ。そして、この先もずっと切り開いてくれ。未来を。
「××……」
涙が溢れ出て止まらなかった。何とか止めようと、僕は上を見上げる。ほっそりとした三日月の周りには、たくさんの星が輝いていた。支えるように。
――永久に時が流れるのなら、みんなが明日を望むのなら、前に進もうとするなら、いつかこの月だって。
〜三日月〜