満開だった桜がひらりと散り、暖かな風が頬を撫でていく春。
私は本気の恋をした。
一目惚れに近かった。好きになったら彼から目が離せなくなり、見ていると内面の素敵な部分が沢山見えてきた。彼を知るごとに、どんどん好きという気持ちが抑えきれなくなっていった。
気づいたら休み時間には話しかけに行ったり、食卓での学校の話に毎日彼のことを話したりするようになった。
こんなに異性の人を好きになったのは初めてだった。
彼に手作りの御守りを渡した時、受け取って貰えるか不安でとてもどきどきした。ありがとうと言って貰ってくれたあの時の笑顔を忘れることは出来ない。
片思いが、両思いだと確信した瞬間は空でも飛べるぐらい心が舞い上がった。
貴方を好きになって良かったよ。
毎月同じ日になると印をつける
今月もこの日を迎えられた、と
印をつけ始めて2回、もうすぐ3回目の印をつける日が来る。
初めての印は彼と付き合った日。カレンダーに記念日を書き留めたことはなかったが、この日は絶対に書き留めておこうと思った。
数が12個になるまではカレンダーに印をつけていこうと思う。ずっと数が増え続ければいいな。
僕は昔から感情というものが理解できなかった。
喜びや悲しみがどういったものなのなのかよく分からなかった。先生がどうして笑ったり泣いたりしないの?て聞いてきたけど、僕自身でさえ分からなかった…周りから機械のような人だとよく言われた。もしかしたら、僕は機械なのかもしれないと思ったが、ハサミで手を切った時に、指から鮮やかな赤色の液体が流れたため、僕はちゃんと人間なんだと思った。
歳を重ねるにつれ、道化のように生きる術を習得した。周りが笑ってると僕も顔を笑顔にした。周りに合わせて生きるのは大変だった。
ある日、彼女と出会った。彼女はよく笑う人だった。心の中で考えてることが全部表情や仕草に現れているみたいで、僕と正反対の人間だと感じ、僕は彼女を知りたいと思った。僕が芽生えた初めての感情だった。
彼女と同じ図書委員に入った。僕はあまり本を読んでこなかった。つまらないものだと思っていたからだ。「登場人物の気持ちになって考えてないからよ」
と彼女は言った。人の気持ちを考えられない僕が、紙の中の現実に居ない人物の気持ちを考えられる訳が無いと思った。彼女は色々僕に教えてくれた。風景の描写から感情を読み取る方法、こういう行動どんな心情が読み取れるか、とても丁寧に教えてくれた。僕はどんどん本の魅力に惹かれた。彼女の楽しそうな表情を見ると心がぽかぽかした。
「それが楽しいって感情だよ」
彼女は僕に沢山の感情を芽生えさせてくれた。知りたいという気持ち、一緒に居て安心する気持ち、彼女に会えない間寂しくなる気持ち、会ったら嬉しくなる気持ち、そして人を好きになるという気持ち…彼女は僕にとってかけがえのない存在になっていた。
朝学校に着くと、いつも来ている彼女の姿がなかった。遅刻かなと思ったけれど、その日彼女は来なかった。
次の日、彼女が交通事故に巻き込まれて亡くなったと先生が言った。僕は信じられなかった。気づいた時には教室を飛び出して外に出ていた。飛び出して行った後の記憶は無い。ただ、今まで感じたことの無い気持ちだけはずっと覚えている。
もう彼女に会えない…あの笑った顔を見ることが出来ない…この感情はなんて言うの…ねぇ、教えてよ…
僕は次の日、図書館に行った。あの感情が知りたかった。
"喪失感" 大切なものを失ったときの、空虚な気持ち
そのページを見た瞬間僕は涙がこぼれた。最後に教えてくれた感情がこれはひどいよ…僕はそっと辞書を閉じた。もっと色んな感情を知りたいと思った。天国で笑いながら彼女と話すために…
彼女の分まで生きよう。
僕は前を向いて、図書館を出た。
世界に一つだけの貴方の命
他の誰でもない僕に守らせて
胸の鼓動の高鳴りが収まらない
気づいたらあの人のことを目で追っていた
この胸の鼓動の高鳴りが恋だと気付いた時には、もうあの人のことで頭がいっぱいだった
席が前後になった時、同じゲームをしていた事を知り、沢山話した。フレンド交換もして、チャットでも何回か話した。席が離れても、話したくて休み時間何度も話しかけに行った。
修学旅行の日、彼は風邪をひいて来れなかった。彼は、あまり人と連絡先を交換する人ではなかったので修学旅行中はゲームのチャットで会話をしていたけれど、彼からLINEで話そうかと連絡先をくれた時は、堪らなく嬉しかった。お土産で文房具を買ったのだが、あげた次の日に彼が使ってくれていたのを見て、優しい人だなぁと思った。
冬休み、2人で遊びたいと誘われた。映画を見たあと、カフェに行き、そこでお喋りをした。気づいたら、数時間経っていた。こんなにももっと話したい、この人のことを知りたいと思ったのは初めてだった。
バレンタインの日、私は彼に店で売ってあるチョコを渡した。まだ自分の恋心に気づいていなかったため、友チョコとして渡した。
ホワイトデーの日、彼から手作りのマカロンを貰った。帰りの車の中でマカロンの意味を調べたら、
「特別な人」と出てきたため、心臓がドキドキして考えすぎかなと思ったけれど、次の日、ちゃんと意味があって渡したんだよって言われた時は、友達としてなのか好きな人なのか分からず自問自答をしていた。
春休み、彼から遊びに誘われた。一緒にプラネタリウムを見た。周りの友達からデートじゃん!と言われたけど、まだ自分の恋心に気づいてなかっため、ただの友達だからと返した。
好きだと自覚したのは学校行事で外で高校野球の周りの高校との定期戦を観戦する日、私と彼は臨時応援団をしていたのだが、お昼の休憩中他にも席があったけど彼は私の隣に座った。熱中症気味だった私を気遣って経口補水液をくれた。この心臓の高鳴りは熱中症からきてるものだと思ったけれど、帰りの車の中でもずっとなっていたためそこで初めて自覚した。私はあの人のことが好きなんだ、と。
それから毎日彼が夢に出てきた。学校で彼と話す度、もっともっと彼を好きになった。早く学校に行きたくて仕方がなかった。
高校最後の総体の日、私は彼に手作りのミサンガを渡した。初めて手作りのお守りを人に渡したため、渡しても嫌じゃないかなとか喜んでくれるかなとか頭の中でずっと考えが止まらなくて不安だったけど、渡したその日に足に付けたと連絡が来た時は嬉しくて、彼と同じ場所にお揃いのミサンガをつけた。
久しぶりに髪を切った日、学校で彼から「似合ってるよ、可愛い」と言われた時は今まで褒められてきた中で一番嬉しかった。
彼が、インスタのストーリーに
「待つ身が辛いかね、待たせる身が辛いかね」
と太宰治の言葉を載せていた。どうしてこの言葉を載せてるのかと返信したら、どっちが辛いんだろうねと返ってきた。その後、
「自分は待たせてる自覚があるかもしれない。けど言うには勇気と覚悟が足りない」
と言った。これは告白したいって言ってるのかなと思った。思い上がりかなと思った。彼が私を好いているという確信が持てなかったが、これで好きじゃなかったら思わせぶりにも程があると思って、私は、
「私はどちらかと言うと待ってる自覚があるよ」
と返した。
次の日、どうしてストーリーにあの言葉を載せたのかその意図が知りたくて、実際に彼に聞いた。教室から出て、玄関に向かう階段の途中で…
「いや、どっちが辛いのかなって思って」と彼が言った。その後沈黙が続いた。階段を一段一段降りるのが長く感じた。靴に履き替え駐車場へ向かった。後ろから緊張が伝わってくる。いつもの雰囲気と違うなとすぐにわかった。
名前を呼ばれ肩を叩かれた。後ろを振り向くと彼が立ち止まっていた。
「これからは、友達としてじゃなくて彼氏として支えたい」
初めて、緊張してる彼の声を聞いた。とても愛おしかった。その時の暖かな気温、少し夕日が落ちてきて少し茜色に近づいた空、吹奏楽の演奏の音、野球部の練習の声、ゆっくりと流れる時間がずっと記憶に残っている。
「私でよければ」
嬉しすぎて、私の声も自分じゃないような声がした。多分ものすごく目がきらきらしてたと思う。
あの胸の鼓動の高鳴りを抑えることは誰にも出来なかったと思う。
彼と出会えてよかった。