うぎゃああああ!!!
半狂乱でぶち破る
なあにが
二人だけの大切な日にしようね、
だバカヤロー
ビリビリに破ってグシャグシャに丸めてゴミ箱に全力投球で投げたら
コントロールが下手くそでゴミ箱の縁に当たって、
パンッと弾けた
ヒラヒラと舞う僕のお誕生日
一緒に祝ってくれるんじゃあなかったのかよ、
嘆いたって仕方が無い
だっておばあちゃんが急に亡くなったんだから
仕方ないよな
こないだもクリスマスに亡くなってた
数えること、おばあちゃん4人目である
何人いるんだよ、お前のおばあちゃんは
複雑な家庭もいい加減にしろ、と思いながら
涙がポロポロ零れる
百年先も一緒にいようね、だの
この時間がずっと続けばいいのにな、だの
思い出す度、アアアアアアアアッ!!と叫ぶ
思い出しながらもう一度、散乱した日めくりカレンダーを集めて丸めてゴミ箱に全力投球する
また外した
初めからわかってた
この恋は一方的なんだろう
ずっと一緒にいたい、だの
君の優しさだったのかもしんないけどさ、
でもそれにしてもあんまりじゃないか、
今度こそは諦めよう
散らかった細切れのカレンダーを拾う
一つ一つ並べてセロハンテープでつなぎ止める
ビリビリにした数が多いから
ベタベタに分厚いカレンダーを完成させると
それをもう一度、ぐちゃぐちゃに丸め込んで
渾身の力を込めて
今度こそ
思い出ごと
全力投球で
『カレンダー』
今でもあの日を夢に見る
我々の目論見はあと一歩
いや残り半歩のところまでたどり着ついた、が
意図せぬ隙間からこぼれ落ちた
我々に落ち度があったわけではない
同様に相手も必死だったのだ
世界征服
甘美な響き、究極の欲求
あと一言、
あとたった一言、発する言葉が早ければ世界は私のものであった
下劣で下品で忌々しいあの豚野郎が
ギャルのパンティおくれ、などと叫ばなければ
だが私は諦めない
かつて世界を混沌に陥れた魔王と手を組むのだ
世界の禁忌、魔王をその封印から解き放ち
我々に恩義を感じた魔王に世界を制圧してもらう作戦だ
封印から解き放つまではシナリオ通り
でも、まさかあんなにあっさり裏切られるなんて
だが私は諦めない
人民の気が緩んだ時にこそ、我々に勝機が訪れるのだ
星ごと奪おうと襲来した宇宙人も
マッドな科学者が扱い損ねた生物兵器も
邪悪な魔道士の生み出した魔人でさえ
我々の夢に及ばなかった
私は決して諦めない
決して諦めてなるものか
世界を征服するその日まで
失うものはないのだから
『喪失感』
ちょ、待てよ
不貞腐れてスタジオを出て行こうとした高井を知村が止める
ここからナンバーワンになるぞ、と地下アイドルでデビューしたボクら五人
どれだけ客が少なくてもお互いにがんばりましょう、と励まし合い
俺達にはきっと明日がある、と信じていた
でも何年も同じ状況が続いて
流石にいい加減に、客の入らない日々で
ナンバーワンの夢もいつぞやの夢
いつしかボクらの心を蝕んでしまっていた
まるで時限付きのダイナマイト
ボクらはついに解散の危機に瀕する
スタジオのドアに手をかけた高井は
こちらに背中を見せたまま言い放つ
俺達これ、いつまでやるんだよ、こんなの10$にもならないべ
ドアノブを持つ手は震えている
重たい空気が流れる
わかった
高井くんの気持ち、わかったよ
じゃあさ、最後にこの1本だけでいいから
キヨシが口を開いた
このまま終わるなんて
ファンのみんなに申し訳ないからさ
応援してくれたファンに感謝して
最後に1本、満足なものを録ろうよ
ありがとうって気持ちを音源として残すんだ
名取が賛同する
そうだね、
でさ、これが終わったら
これが終わったら五人で朝日を見にいこうよ、オレンジ色の朝日
知村は寝ていた吾郎をバンバンと叩き起こして
胸騒ぎを頼むよ、と声をかける
そしてボクらはあの頃の笑顔と元気を取り戻し最後のサビを皆で歌った
ナンバーワンにはなれなかったかもしれないけど
あの頃の未来とは違ったかもしれないけど
この五人で過ごした時間はずっと忘れない
『世界に一つだけ』
なあにが
私の鼓動は16ビート
オープンハットで刻み倒して、
だ、バカヤロウ
初めて対バンしたあの日
お前は輝いてた
お前のステージを見たあの瞬間から俺のビートが鳴り始めた
打ち上げのノリと勢いで、と思ってたのかもしんないけど
お前の歌声を聴いた瞬間に俺は心に決めてたんだよ
俺がカートならお前はコートニー
お前がナンシーなら俺はシドだわ
ドラマーとボーカルであんまりそういう例がないからさ、
歴史的にベタな人達を引き合いに出したけど、
つまり、俺はそういう気持ちでいた
俺達二人でロック史に名を刻もうぜ、て
そしたらお前は応えてくれた
そんなのヤダよもう、
みんな先立っちゃうじゃない
カートもシドもレノンだってそう
私を置いていかないで
私の鼓動は16ビート
オープンハットで刻み倒して、
つって
それなのになんでお前は浮気なんてしちゃうんだよ
しかも、よりによってベースのタカシと
地元最強と言われた俺とタカシのリズム隊は気まずい空気でビートを刻む
お互い知らないフリをするのももう限界で
それなのに、なんでお前は
ギターのテツオまで
『胸の鼓動』
目覚めるとすぐに目の前の老婆が泣き崩れた
画面がブレる
隣の白衣を着た人が慌てて老婆を抱えた、泣きながら笑っている
なんだかどうして
意識が覚束ない
目の端に窓が見える
朝かもしれない
勢い良くドアが開く音
なんだっていうんだ
首が重たくて起こせない
ドタバタと入ってきた誰かに話しかけられる
よくわからない
とにかく眩しいんだよ
名前を聞かれて
返事する
小さい部屋に歓声があがる
なんだこれ?
ここはどこだ?
さっきまで泣き崩れてた老婆が抱きついてきた
よくわからないけど、なんだか不思議と嫌な気持ちはしない
酩酊の意識が少しずつ整う
窓から覗く雰囲気は朝だ
やっぱり僕は眠っていたらしい
白衣を着た人が医者だと名乗る
表情を変えずに話し始めた
わかりますか?と
僕はわからない、と応える
やっぱり僕は眠っていたらしい
医者だと名乗る人物は
その通り、眠っていたんだ、とゆっくり話し始める
驚かないで欲しい、
老婆はまだ泣いている
君は眠っていた
すごく長い時間を、と
ゆっくり息を吸い込んで
時を告げる
『時を告げる』