田中ボルケーノ

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ちょ、待てよ

不貞腐れてスタジオを出て行こうとした高井を知村が止める


ここからナンバーワンになるぞ、と地下アイドルでデビューしたボクら五人

どれだけ客が少なくてもお互いにがんばりましょう、と励まし合い
俺達にはきっと明日がある、と信じていた

でも何年も同じ状況が続いて
流石にいい加減に、客の入らない日々で
ナンバーワンの夢もいつぞやの夢

いつしかボクらの心を蝕んでしまっていた

まるで時限付きのダイナマイト

ボクらはついに解散の危機に瀕する


スタジオのドアに手をかけた高井は
こちらに背中を見せたまま言い放つ

俺達これ、いつまでやるんだよ、こんなの10$にもならないべ

ドアノブを持つ手は震えている

重たい空気が流れる

わかった
高井くんの気持ち、わかったよ
じゃあさ、最後にこの1本だけでいいから

キヨシが口を開いた

このまま終わるなんて
ファンのみんなに申し訳ないからさ
応援してくれたファンに感謝して
最後に1本、満足なものを録ろうよ
ありがとうって気持ちを音源として残すんだ

名取が賛同する

そうだね、
でさ、これが終わったら

これが終わったら五人で朝日を見にいこうよ、オレンジ色の朝日


知村は寝ていた吾郎をバンバンと叩き起こして
胸騒ぎを頼むよ、と声をかける

そしてボクらはあの頃の笑顔と元気を取り戻し最後のサビを皆で歌った

ナンバーワンにはなれなかったかもしれないけど
あの頃の未来とは違ったかもしれないけど

この五人で過ごした時間はずっと忘れない


        
          『世界に一つだけ』

9/9/2024, 1:21:16 PM