やだやだ、遅刻遅刻~、と
食パンを囓りながら学校までダッシュしていたら
タバコ屋の角でドシ~ンとぶつかった
イテテテ、と思って見上げると
どこ見てんだよ、と怒鳴られる
なによアイツ偉そうに、と思いながら朝のチャイムにギリギリ間に合ったら
転校生が来るらしい
ガラガラと空いたドアから
先生と転校生が入ってきた
先生が紹介すると
朝のアイツじゃないか、、
あー、あの時のー!!
と二人で声を揃えると
なんだ知り合いか、では隣の席に、で最悪の二学期が始まった
それから教科書忘れただの、消しゴム忘れただの、ことある毎に話しかけてくる
馬鹿なんだから忘れるのよ
私は無視したわ
ある日、暮れたグラウンドでアイツを見かけた
やっぱり馬鹿なんじゃないの、こんな時間まで、筋トレなんかして
夢を見るのもいい加減にしなさいよ、どうせ下手くそなんだから、と思いつつも
なんだか無性にイライラするの、金網越しに
やっぱり負けたらしい、
どうせアンタがヘマこいたんでしょ、と笑うと
一瞬こっちに目を見開いて、それから黙って俯くのよ
ざまあないわね、気にしないでしょ
どうせ忘れるんだから
それからまた突然転校するとか聞いた時には清々したわ
アンタの顔を見なくて済むんだから
でも、どうしてだろう
裸足で駆け出したい気持ちを抑えて
スニーカーの靴紐を結ぶ
間に合わないかもしれない
でも間に合うかもしれない
19:35発の飛行機は
もしかしたら遅れるかもしれない
私は走る
都市を結ぶ光線は
眩い光で
私は眩しくて
目が潰れてしまう
涙が溢れる
涙が零れる
ごめんなさい
私は走る
まだ間に合うかもしれない
さよならを言う前に
伝えたい言葉がある
まだ間に合うかもしれない
忘れてしまう前に
『さよならを言う前に』
なんで降らないんだ
あらゆる手を尽くしたのに
作物は枯れ、河は干上がり、村人は次々と倒れていった
残り少ない家畜から生贄を捧げ
伝説の祈祷師を呼び寄せた
七日七晩、神々への祈りで踊り続けたが
日に日に陽は増し
八日目の朝、祈祷師は踊りながら息絶えた
その晩
いよいよか、
長老が言葉を続ける
こんなことはしたくなかったが、と皆に告げた
村人達は全員で祈る
しかし夜が明けても、やはり雨は降らなかった
最後の生贄、悪魔の所業
先月生まれたばかりの赤子を
わかって下さい、と無理やり母親から引き剥がし、祭壇に掲げる
母親は泣き叫ぶ
が、涙は枯れてしまっていた
伝承によれば
最後の生贄を捧げると雨に恵まれ緑豊かな土地へと生まれ変わるという
許して下さい、村を守るためなんです、
震える手で赤子に手を伸ばす
小さな首、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、
その時だった
話は聞いたわ!!
村人達をいじめるのはおよしなさい!
崖の上から誰かが叫ぶ
マーキュリープラネットパワー!メイク、アップ!!
まばゆい光と共に青と白の二色の布を纏った少女が現れた
水と知性の戦士、参上!
水星にかわって、おしおきよ!
すると空から巨大な怪獣も現れた
ゲヘヘヘヘヘ!邪魔するヤツはだれだあ~!
ついでにお前もカピカピにしてやるぜえ!
なんだ、なんだ、と村人達が騒ぎ始める
やっぱりあなたの仕業だったのね!
これでもくらいなさい!
シャイン・アクア・イリュージョン!!!
ドカーン、ギャー!
あっという間に怪獣をやっつけてしまった
ウフフ可愛い赤ちゃん
これでもう安心よ
あ、ありがとうござまいます
母親から涙がこぼれ落ちる
ポツポツ
やだ、雨降ってきちゃった
あ、、雨だ、雨だ、信じられない、と歓喜する村人達を横目に
やだもう、風邪引いちゃう、と少女は去っていった
それから3000年後
ある遺跡から美少女戦士にそっくりな巨大な石像が発掘されたという
アニメ好きからは映えると評判らしい
『空模様』
これやるよ
お前みたいだろ、お前泣き虫だから
なにこれ気持ち悪い、こんなのどこで見つけてきたのよ
わたしは泣き虫かもしれないけど
鳴き虫じゃないのよ、もう
と、いって二人で笑った
君が初めてくれたプレゼント
セミの携帯ストラップ
それからたった1週間
たったの1週間で君はぽっくり逝ってしまった
どっちかって言うと君がセミじゃない
わたしは夏が来る度、鳴きながら過ごす
スマホに無理やり繋げたセミのストラップを眺めながら
『いつまでも捨てられないもの』
共感を生むクリエイト、というものは一瞬で決まると信じている
所謂、ひらめき
主旋が降りてきた瞬間が最高の鮮度で
その鮮度を保ちなから一つの楽曲として成り立たせる為に技術が必要なんだ、と
時代の寵児と持てはやされ
曲を書けばミリオン連発
日本のレコードシーンは
私が持つこのペン先のインクに左右されている
その根源は
このひらめきである、と今でも信じている
ピアノに座り歯を磨くのが日課になった
朝、目覚めた瞬間に降りてきても困らない様に
いつものように歯磨き粉を歯磨きに乗せようとした、その瞬間
頭が真っ白になる
かつて無いほどのひらめき
息ができない
汗が滲む
とにかく鮮度を保たなくては
鍵盤の上に歯磨き粉をまき散らしながらピアノにかじりつく
ミントで手がスースーするが気にならない
至福の瞬間
キャリアハイ
トリプルミリオンだよ、これは
骨を繋げ
肉を付け
顔を整え
名前を授ける
出来上がった個体を完成させるため、マネージャーへ電話を入れるとパジャマのままスタジオへ向かった
到着した時にはすでに最高の演者とエンジニアがスタンバっていた
ピアノから湧き出た源泉を適温にするため
リズムに指示しギターを削りストリングスを束ねる
歌詞とは心である
最高の楽曲と同時に最高の歌詞が降りていた
キャリアハイ
トリプルミリオンになる、
はずだった
理由がわからない
レコーディングの最終盤
どうしてもなにかが合わない
最初に降りてきたサビ
このサビを元に全てが作られた
ここを変えるわけにはいかない
キーを変えピッチを変え楽器を何度も変えた
だけどやればやるほど、
モナリザに油絵の具を塗り重ねる感覚、最高のひらめきが失われていく
サビもメロディも共感を生む歌詞も全て完璧だったはずなのに
愛しさと
切なさと
誇らしさと
どこがおかしいのか、全然わからない
『誇らしさ』
こうやって二人きりで話すのは何気に初めてかもしれない
ていうか思い返しても、職場で真面に話したことがあったかな
夜の海は距離感がよくわからなくなる
お互いの顔はよく見えないし、波の音が副交感系のなんらかに直接作用してるんだと思う
砂にはまだ少し熱が隠っていた
坂本さんが辞めるらしい、
バイト先で聞いた時、特段何の感情も湧かなかった
あー、そうなんすね
長かったでしょ、あの人
送別会とかやるんすか
それが何も決めてないんよ、やっぱ何もないのはちょっとあれだよな
と、いうわけで送別会と称して
仲の良いメンバーと坂本さんでバーベキューをやることになった
なんとなくだけど、同じ大学生の僕たちとフリーターである坂本さんには元々見えない境界線があった様に思う
別に穿った見方をしているとか、そんなつもりは全く無いんだけど、壁というか
お互いにこれ以上は干渉しない方が心地よい、みたいな暗黙の何かがそこにはあった
送別会をやりたいと、店長に伝えると
あ~、俺、その日いけないんだよ
これで見送ってあげて、とポンと万札を差し出した
店長はこういうタイプのヤツだ
案の定、僕らはバーベキュー代をせしめたのである
会は盛り上がった
最初は坂本さんに若干の気を使い、話を振ったりしたが、会が進むにつれ酒も入り
男女でキャッキャと、みんな散り散りに楽しみだす
坂本さんも思うことはあったのかもしれないけど、お互い干渉しないという暗黙のアレが働いたんだろう、
ふと気づくと
海を見つめ座っている姿が見えた
雲の隙間から月が砂を照らして
墨は燃え尽き
波の音は夏の残像となった
こうやって二人きりで話すのは何気に初めてかもしれない
あー、坂本さんお疲れっす、おつっす、おつっす!
いやあ、長い間お疲れ様でした
話かけたのは良いが、会話に困り
あー、そういえば、、
坂本さん、ここのコンビニ辞めて次なにするんでしたっけ?
と、尋ねる
そういえば、誰も聞いてなかった
え?俺?
いや実はさ、子供の頃からの夢というか
俺、前からやりたいことあってさ
夜の海は距離感がよくわからなくなる
まともに話したこともなかったけど、まるで旧知の友人の様に問いかける
子供の頃からの夢?
え?次なにするんですか?
雲の隙間から月が溢れた
夜の海にスポットライトを照らして
表情が見える
顔つきが変わったのがわかった
意志が込められた、真剣な眼差しで
俺、、自分の店開くんよ
探偵になるの昔から夢だっんだ
波の音が静かに響く
ズボンの砂を払い
コンビニのこと、後は任せたよ
と薄くなった髪を海風にたなびかせながら坂本さんは去った
砂にはまだ少し熱が隠っていた
『夜の海』