田中ボルケーノ

Open App
8/11/2024, 1:40:31 PM

夏が来る度、思い出す

小学二年生だった僕にはどうしても欲しいものがあった

夏休みの必須アイテム、三種の神器

友達みんなが持っているから、
欲しいというより悔しいという気持ちに近かったのかもしれない

幼心に気づいていた
僕の家はどう考えても周りの家より貧しくて
だから中々言い出せずにいた

でも僕はツイていた
近所の沢に一人で遊びに入ったら、柄の折れた虫取り網と、その横にペシャンコに潰れた虫カゴを見つけたんだから

折れた柄は手頃な木と蔓を結んで、潰れた虫カゴは大体の形に戻して破れた隙間を細い竹で塞いで

これで三種の内、二種は手に入れた

最後の神器はどうしよう

正直に母に欲しいと言ったとて、
麦わら帽子なんか買えないよ
と怒鳴られるのが関の山だ

でも、ここまで来たら揃えたい
この三種が揃えば友達と並ぶ
何の気兼ねなく同じ立場で遊べるのだから

その時
僕は閃いてしまった

麦わら帽子ごときでドヤっていた友達が霞んでしまうほどの圧倒的閃き

渾身のアイディア

僕は虫取り網と虫カゴを手に沢へ入る
夢中で潜り
ひたすら集め
息は切れ切れ
日が落ち、暮れる間際まで

暗くなった家へ帰り
一つずつ丁寧に紡ぐ
夜更けに母が
早く寝なさい、とまくし立てるが
気にもとめない

僕は誰にも負けない帽子を作るのだから

手が痒い
目が霞む
体が軋む

夜が明ける頃
僕の帽子は完成した

三種の神器を携えた僕は
朝日の中を悠然と歩く

おい!まだ寝てるのか!と友達を起こす

そうだ、今日からは堂々と言える

一緒に遊びにいくぞ!と



夏が来る度、思い出す

小学二年生だった僕は沢でカニを採るのが得意だった

誰にも負けない三種の神器
虫取り網と虫カゴと大量のカニを紡いだ帽子

カニワラ帽子

ドヤ顔で友達に披露する

その日から僕のあだ名は
カニキャップになった



           『カニワラ帽子』

8/10/2024, 11:13:47 PM

どうされました?
終電を逃した様な顔して
黄色い線の内側に立ち入る様ですが、私で良ければ話してみませんか?

あ、、いやその
確かにお察しの通り、心のダイヤが乱れているかもしれません
踏切れない想いを抱えている、というか
私、実はその、年甲斐もなく、恋をしまして

おお、恋ですか
それは良い事じゃないですか、発車オーライですよ

いや、それが私にはプラットホームがあるんです、長年連結した妻と子供が
妻と出会った時、一生この路線で添い遂げる、と定期券に誓ったはずなのに、今さら他人に恋とか
お恥ずかしい話ですが、最近家族からは網棚の上のお荷物扱いでして
妻のつり革も握らせて貰えないんです
そんな中、出会いました
まるで始発みたいな清々しい方で、それからというもの、私の心はその女性専用車両なんです

なるほど、その車両に駆け込み乗車で飛び乗りたい、というわけですね

いや、
もちろん車掌として家庭の運行を大事にしないといけないのはわかっています
だけど人生の終点を迎えた時、あの時あの路線に乗り換えておけば改札機に挟まれずに済んだのに、と後悔しそうで
そんな想いがグルグル、グルグルと回ってしまって、

まるで山手線ですか

ええ、でも私も本当はわかっているんです
初めて行った新宿駅での乗り換えみたいなもので単なる気の迷いだってことは

その通り、私もこのまま終点まで乗られる方が良いと思います
本当に大切なものをお忘れにならないように
ご降車の際はお忘れものにご注意下さい



               『終点』

8/10/2024, 12:34:49 AM

上手くいかなくたっていい
挑戦することが大事なんだ
僕たちは夢を売るのが仕事なんだから

社員には事あるごとに言って聞かせた

もちろん良い時もあった
これで事業が軌道に乗る、という感触があった
このままでいきましょう、との社員の声に
何言ってんだ、挑戦が足りない、お前らは夢を見ないのか、と押し切った

無理矢理高度を上げる
もう少し上げればジェット気流に乗って儲かる速度が三倍になる
それが僕の計算だった

ミシミシと音を立て始める
それでもなんとか耐えるだろう

あれ?なんかオカシイな、と計算式を見直した時にはもう遅かった

夢を乗せた機体は外圧に耐えきれず
一部が崩壊したと思った直後に連鎖的に弾け
原形が何だったのかわからないほど無様な姿を晒しながら
ゆっくり、ゆっくり、海へ堕ちる
残骸は藻屑と散った


アメリカには夢があるという

掴めば億万長者
しかも誰にでもチャンスがあるんだって

借金6億円

いや7億円だったかな、まあどっちでもいいか
僕はもうすぐ掴むのだから

色はカラフルな方が良い
ヘリウムをたくさん詰め込んで
大きく膨らむ僕の夢

記者を集めアメリカに渡ると高らかに宣言する
このまま一緒に過ごせればそれでいいじゃない、との家族の声を押し切って

彩りの風船は青い空によく映える
まるでファンタジーだ
重りを外し、行ってくるよ、と手を振った

高く高く舞い上がれ
風に乗ってあっと言う間にアメリカだ

全て計算通り、
今度こそ絶対に上手くいく



     『上手くいかなくたっていい』

8/8/2024, 2:02:47 PM

二人が討たれた、と聞かされた時は動揺した

悟られないよう
硬く唇を縛り、目をつり上げ、大したこと無いよ、と憮然とした表情で少し顎を引く

本当は胸の奥まで動悸し血の気が引いて
返事の仕草を返すのがやっとであった

でも最期まで諦めない


私は幼い頃からぶっきらぼうで
何かにつけて喧嘩をふっかけ制圧する

何でも一番になりたくて
弱い者は朽ちて知るべし、と強がっていた

いつか私が天下を取る、と高らかに主張する
周りには誰もいなくなっていた

でも、二人はいつも笑っていた
二人だけがわかってくれた
全くの脳天気が心地良かった

未来の将軍様
お前が天下を取ったら俺達を大臣にしてくれよな、右大臣と左大臣で

私達は野戦で名を挙げ
刃向かう敵をなぎ倒し
死線を越えて
名を挙げ
名を挙げ
死線を越えて
名を挙げ
名を挙げ

今夜、天下はもうこれ間近
手の内側まで転がってきた

だけど、最後で溢れ落ちた

城が焼ける
悲鳴が聞こえる

バチバチと音を立て赤く染まる部屋で
二人が討たれた、と聞かされた時は動揺した

本当の名前もまだ教えて貰ってないのに

喉が焦げる
刀を手に取る
黒煙が舞う
視界が燃える

蝶よ、花よ
視界が燃える
まだ諦めない


             『蝶よ花よ』

8/7/2024, 1:28:35 PM

ええっ?!

最初から決まってた?
えっ?なにそれ、どういうことですか?

あんなに我慢したんすよ、七年すよ七年
あんななんもないとこに七年も閉じ込められて

やっとこさ出てられて
よっしゃこっからが本番じゃい!
みとれよ俺の魂の叫び、生命の熱り、全集中で燃やしてやるぜ!!

つった直後に
網で採られて、カゴに入れられ、
近くでみるとマジでキモいとか、
夜に鳴くなようるさいな、とか言われて、結局飽きられて、なんかそのまま放置プレイでチーン的な

え、あれ、全部最初から決まってたんすか?
なんなんすか、マジで

え、なに?

次はウナギにするから、じゃあないんですよ
似たようなもんじゃないですか、ウナギも

今回、選択肢は少なかった中でこれ選んだのも
我慢して我慢して、解放されてからあの限られた1週間で自分の生命をどこまで高められるか、そこに込められた熱い想い的なのを感じたかったから選んだんすよ

限られた時間の中で最愛のパートナーと出会い
短いけれど灼熱に燃えたぎって添い遂げる的なの、意外といいかもな、つって
土の部分我慢したのに

マジでなんなんすか、最初から決まってたとか

え?なんすか?

わかった、次はナマコにする?

似たようなもんじゃねーか、なんでさっきからニョロニョロ系なんだよ、いい加減にしろ


       『最初から決まっていた』

Next