田中ボルケーノ

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夏が来る度、思い出す

小学二年生だった僕にはどうしても欲しいものがあった

夏休みの必須アイテム、三種の神器

友達みんなが持っているから、
欲しいというより悔しいという気持ちに近かったのかもしれない

幼心に気づいていた
僕の家はどう考えても周りの家より貧しくて
だから中々言い出せずにいた

でも僕はツイていた
近所の沢に一人で遊びに入ったら、柄の折れた虫取り網と、その横にペシャンコに潰れた虫カゴを見つけたんだから

折れた柄は手頃な木と蔓を結んで、潰れた虫カゴは大体の形に戻して破れた隙間を細い竹で塞いで

これで三種の内、二種は手に入れた

最後の神器はどうしよう

正直に母に欲しいと言ったとて、
麦わら帽子なんか買えないよ
と怒鳴られるのが関の山だ

でも、ここまで来たら揃えたい
この三種が揃えば友達と並ぶ
何の気兼ねなく同じ立場で遊べるのだから

その時
僕は閃いてしまった

麦わら帽子ごときでドヤっていた友達が霞んでしまうほどの圧倒的閃き

渾身のアイディア

僕は虫取り網と虫カゴを手に沢へ入る
夢中で潜り
ひたすら集め
息は切れ切れ
日が落ち、暮れる間際まで

暗くなった家へ帰り
一つずつ丁寧に紡ぐ
夜更けに母が
早く寝なさい、とまくし立てるが
気にもとめない

僕は誰にも負けない帽子を作るのだから

手が痒い
目が霞む
体が軋む

夜が明ける頃
僕の帽子は完成した

三種の神器を携えた僕は
朝日の中を悠然と歩く

おい!まだ寝てるのか!と友達を起こす

そうだ、今日からは堂々と言える

一緒に遊びにいくぞ!と



夏が来る度、思い出す

小学二年生だった僕は沢でカニを採るのが得意だった

誰にも負けない三種の神器
虫取り網と虫カゴと大量のカニを紡いだ帽子

カニワラ帽子

ドヤ顔で友達に披露する

その日から僕のあだ名は
カニキャップになった



           『カニワラ帽子』

8/11/2024, 1:40:31 PM