シロイヌ

Open App
1/12/2024, 1:55:45 PM

 「そういえば、今日は私の誕生日でしたね。」 

 君が大人への階段をまた一段登った日。贈った髪飾りをそっと撫でながら、嬉しいと言ってくれたっけ。

 これまで君に贈ったプレゼントの数は、君が一歩ずつ大人になっている証。時の流れとともに、次第に大きくなっていく。

 少し前まで、あんなに小さかったのに。時の流れは面白い。君の成長をもっとみたいと思う反面、ずっとこのままでいてほしいとも思う。いつか、この手からひとり立ちする時が来ると思うと、嬉しいようで少し寂しい。

 今この瞬間の君を焼き付けておこう。君は成長していくけれど、今の君を思い出せるように。
 

1/11/2024, 12:00:58 PM

 「手がちべたい...」

 部屋に入るなり、真っ赤になった手をこすりながら君は言った。その手に触れてみると、まるで温度を失った氷のようだった。

 手も耳も頬も、外界と触れる部分の全てが赤い君をみていると、凍てつく寒さの中で凍える君が目に浮かぶ。何もしてあげられなかったことがとてつもなくやるせない。

 せめて、君の手から伝わってくる冷たさと引き換えに、君の手へ温かさを伝えたい。熱力学第0法則があるのなら、触れ合うものの温度は均一にならなければいけない。君だけが冷たくていいわけがない。

 寒さが身に染みるときには、温もりもまた身に染みる。冷えきった君に少しでも温もりをとどけられたら嬉しい。
 
                遠い君へ

1/10/2024, 1:08:09 PM

 「もうお姉さんですから。」
 
 16歳の頃、君はそう言った。もう大人なのだから、子供扱いしないでほしいと。

 あと数年。君が本当の意味で大人になるまでの時間。きっとあっという間に過ぎ去ってしまうのだろう。

 ずっと見守ってきたはずなのに、気づけば君は立派な大人になっていた。少しの寂しさはあるけれど、君が無事に成長してくれたことが何より嬉しい。

 残りの数年、たまに子供扱いすることを許してほしい。

                遠い君へ

1/9/2024, 1:33:28 PM

 「今日は月が綺麗ですね。」

 紺色の空に浮かぶ三日月を見上げながら、君はそう言った。

 細くて今にも消えてしまいそうなのに、見えない月の縁に確かにしがみついている明るい弧。その儚くも力強い姿に胸を打たれる。そう伝えた。

 「見えないから綺麗なんです。」

 君はそう答えた。

 三日月の夜、月はその縁の一部分しか姿を見せてくれない。未知の領域が多いからこそ、無限の可能性を秘めている。だから、三日月は想像力を掻き立てる。
 
 君の言葉の意味を自分なりに解釈してみたけれど、君のことは何もわからなかった。だから、もっと君のことを知りたいと思った。

 今日は、三日月が綺麗だった。

                遠い君へ

1/8/2024, 12:59:18 PM

 日本語には色を表す単語が多いから、私たちは多彩な色を認識することができるのだとどこかで読んだ。

 心情を表す言葉の語彙を増やせば、君を想う時の感情も明瞭に捉えられるだろうか。

 でも裏を返せば、言葉で表すということはあらかじめ用意された型で対象を切り出すこということだ。

 君を想うこの気持ちには言葉のメスを入れないでおこう。言葉の枠にとらわれない彩りを与えておきたいから。

               遠い君へ

Next