「もうお姉さんですから。」
16歳の頃、君はそう言った。もう大人なのだから、子供扱いしないでほしいと。
あと数年。君が本当の意味で大人になるまでの時間。きっとあっという間に過ぎ去ってしまうのだろう。
ずっと見守ってきたはずなのに、気づけば君は立派な大人になっていた。少しの寂しさはあるけれど、君が無事に成長してくれたことが何より嬉しい。
残りの数年、たまに子供扱いすることを許してほしい。
遠い君へ
「今日は月が綺麗ですね。」
紺色の空に浮かぶ三日月を見上げながら、君はそう言った。
細くて今にも消えてしまいそうなのに、見えない月の縁に確かにしがみついている明るい弧。その儚くも力強い姿に胸を打たれる。そう伝えた。
「見えないから綺麗なんです。」
君はそう答えた。
三日月の夜、月はその縁の一部分しか姿を見せてくれない。未知の領域が多いからこそ、無限の可能性を秘めている。だから、三日月は想像力を掻き立てる。
君の言葉の意味を自分なりに解釈してみたけれど、君のことは何もわからなかった。だから、もっと君のことを知りたいと思った。
今日は、三日月が綺麗だった。
遠い君へ
日本語には色を表す単語が多いから、私たちは多彩な色を認識することができるのだとどこかで読んだ。
心情を表す言葉の語彙を増やせば、君を想う時の感情も明瞭に捉えられるだろうか。
でも裏を返せば、言葉で表すということはあらかじめ用意された型で対象を切り出すこということだ。
君を想うこの気持ちには言葉のメスを入れないでおこう。言葉の枠にとらわれない彩りを与えておきたいから。
遠い君へ
雪が降って君は風邪を引いた。
辛そうな君の姿に胸が締め付けられる。
でも、君の手を握っていてあげられる。
ゆっくり早く、元気になってほしい。
遠い君へ
君と一緒にいたいなんて言わない。
ただ君が幸せでいてくれたら、それでいい。
それがいい。
酸いも甘いも噛み分けて、立派な大人になってほしい。
人の温かみにたくさん触れて、人の可能性を感じてほしい。
そして、願わくば君の成長を見守らせてほしい。
君の人生に幸あれ。
遠い君へ
あとな、もう付き合っちゃえよ!!!笑