ヒノエ

Open App
4/18/2026, 12:27:43 PM

「無色の世界」




「えーと、ではイメージカラーをお伝えします。
まず、ラップ担当のまりすくんは、赤ね」

まりす、と呼ばれた小柄なファニーフェイスの少年が神妙にうなずく。
 いたいけで純真そうにみえて、ラップでは、誰もが認める実力者だ。

「ダンス担当の、ゆいとくんは水色、はるひくんは紺、まなかくんは青」

 次々と、メンバーに割り振られたイメージカラーが発表される。

 男性ユニットのデビューなど、ショービジネスの世界全体からすれば、日常のよくある光景だ。
砂つぶほどの数のユニットが毎日、産声をあげる。

 その中で、どのくらいのユニットが生き残れるのか。
 生き残った中で、どのくらいが3年後も人々の目に、そのすがたをうつしていられるのか。

 こんな小さな芸能事務所だが、練習生期間を耐え抜き、やっとデビューまでこぎつけた。
 いま、事務所がいちばん力を入れているユニットに、ぼくは選ばれた。

 やっと、夢が叶う。

「……はい、以上!」

 ぼくの名前は呼ばれなかった。
 でも、ぼくは自分のカラーを知っている。
 
「みんな! みきおくんのことは残念だったけど」

 社長がしんみりと言葉を続けた。

「彼のぶんも頑張っていこう」
「見守ってくれてるよな」
「当たり前だ。あいつの分も成功してやる!」

 ぼくも、いっしょだよ。

 ぼくのカラーは「無色」

 


       終
 

4/5/2026, 8:30:26 AM

「それでいい」





 うん。

 それでいい。

 それでいいんだよぉ。

 わかってるじゃん、ぼくのこと。
 ぼくのほしいモノ、ぼくのスキなモノ。

 でもさ、ぼくがちょーっとあまいカオ、すれば、みんなすぐにオチちゃうよねえ、まぁ、そのなかでも、コイツがいっちばんチョロいよねえ!
 
「にゃあぁーんん」

「はぁー、肉球ぷにぷにー、尊いー。
 わかったわかった、もう一本あげるねぇー、
 ほら、ちゅーる」


うん。

それでいいにゃ。








3/31/2026, 12:55:59 AM

「何気ないふり」




 そうだ。
 
 なにごともだいじなのは、何気ないふりでしょ。

 自分のために。

 ここで何気なくふるまえなくても、他人さまに迷惑はかけないけど、やっぱりこの状況で自分のためにというのは重要だ。

 気を強く持て、わたし。

 がんばれ、わたし。

 何気ないふりで切り抜けろ。
 
 目がすごくかゆいけど。
 掻いちゃだめ、ぜったい。
 気持ちいいのはその時だけで、すぐに何百倍も痒くなるんだから。

 花粉症なんかに負けないんだから。
 

         終

 

 

3/28/2026, 11:59:36 PM

「見つめられると」
 




 困る。

 そんなに見つめられると。

 わたし、自分でいうのもアレだけど、
すごい内気なんだよー……。

 しかもこんな大勢、人がいる場所で。
 週末の、混みあってるレジだよ?
 うしろには、会計を待つ長い列ができてる。

 なのに。
 わたしのことだけ、じっと見つめてくる。
 恥ずかしすぎる……。

 なにを期待されてるかは、わかってる。
 応えないと終わらない気が、すごくする。
 もう、勇気を出せ。
 自分。

 しずかにゆっくりと深呼吸をする。
 緊張でふるえる指で、ピースサインをする。

「あら、ありがとうございます。この子につきあわせちゃって、ごめんなさいね。
 勇人クン、レジのお姉さんにありがとってしなさい?」

ゆうとクンは、にこりともしない仏頂面で、わたしを見つめたまま、不動のピースサインの残像を残し、お母さんにぐいぐい手を引かれて、そして見えなくなった。

 ああ、良かった。なんとかうまく乗り越えた。

「お待たせいたしました」
そう言いながら、次のお客さんの、食品がたくさんつまったカゴを引き寄せる。

「いいのよー、可愛い男の子だったわねえ」

「そうですね……」

 いちばん上に乗っているもの。
 これは。

 ふるえる手で、ぎょろりとわたしを見つめるニジマスのパックを手に取り、バーコードをスキャンした。
 ニジマスは、わたしに目玉を向けたまま、お客さんのマイバスケットにおさまった。

 まだ見つめてる。

 まだ見つめてる……。
 



           終

 
 

3/25/2026, 10:33:57 AM

「好きじゃないのに」


 みられてる。

 すごいみられてる。

 あいつ、乾いたまんまるい目で、わたしのことをじいっとみてる。
 好きじゃないのに、わたしは。全然。
 ぜったいに目にしたくないのに。
 わたしの前に来てほしくない。
 好きじゃないのに!
 わたしの中に入れたくない!
 なのに。
 
「焼き魚なら食べられるって言うから、そうしたのよ。さっさと食べなさい」

やっぱりダメ……。

          完

Next