「無色の世界」
「えーと、ではイメージカラーをお伝えします。
まず、ラップ担当のまりすくんは、赤ね」
まりす、と呼ばれた小柄なファニーフェイスの少年が神妙にうなずく。
いたいけで純真そうにみえて、ラップでは、誰もが認める実力者だ。
「ダンス担当の、ゆいとくんは水色、はるひくんは紺、まなかくんは青」
次々と、メンバーに割り振られたイメージカラーが発表される。
男性ユニットのデビューなど、ショービジネスの世界全体からすれば、日常のよくある光景だ。
砂つぶほどの数のユニットが毎日、産声をあげる。
その中で、どのくらいのユニットが生き残れるのか。
生き残った中で、どのくらいが3年後も人々の目に、そのすがたをうつしていられるのか。
こんな小さな芸能事務所だが、練習生期間を耐え抜き、やっとデビューまでこぎつけた。
いま、事務所がいちばん力を入れているユニットに、ぼくは選ばれた。
やっと、夢が叶う。
「……はい、以上!」
ぼくの名前は呼ばれなかった。
でも、ぼくは自分のカラーを知っている。
「みんな! みきおくんのことは残念だったけど」
社長がしんみりと言葉を続けた。
「彼のぶんも頑張っていこう」
「見守ってくれてるよな」
「当たり前だ。あいつの分も成功してやる!」
ぼくも、いっしょだよ。
ぼくのカラーは「無色」
終
「それでいい」
うん。
それでいい。
それでいいんだよぉ。
わかってるじゃん、ぼくのこと。
ぼくのほしいモノ、ぼくのスキなモノ。
でもさ、ぼくがちょーっとあまいカオ、すれば、みんなすぐにオチちゃうよねえ、まぁ、そのなかでも、コイツがいっちばんチョロいよねえ!
「にゃあぁーんん」
「はぁー、肉球ぷにぷにー、尊いー。
わかったわかった、もう一本あげるねぇー、
ほら、ちゅーる」
うん。
それでいいにゃ。
終
「何気ないふり」
そうだ。
なにごともだいじなのは、何気ないふりでしょ。
自分のために。
ここで何気なくふるまえなくても、他人さまに迷惑はかけないけど、やっぱりこの状況で自分のためにというのは重要だ。
気を強く持て、わたし。
がんばれ、わたし。
何気ないふりで切り抜けろ。
目がすごくかゆいけど。
掻いちゃだめ、ぜったい。
気持ちいいのはその時だけで、すぐに何百倍も痒くなるんだから。
花粉症なんかに負けないんだから。
終
「見つめられると」
困る。
そんなに見つめられると。
わたし、自分でいうのもアレだけど、
すごい内気なんだよー……。
しかもこんな大勢、人がいる場所で。
週末の、混みあってるレジだよ?
うしろには、会計を待つ長い列ができてる。
なのに。
わたしのことだけ、じっと見つめてくる。
恥ずかしすぎる……。
なにを期待されてるかは、わかってる。
応えないと終わらない気が、すごくする。
もう、勇気を出せ。
自分。
しずかにゆっくりと深呼吸をする。
緊張でふるえる指で、ピースサインをする。
「あら、ありがとうございます。この子につきあわせちゃって、ごめんなさいね。
勇人クン、レジのお姉さんにありがとってしなさい?」
ゆうとクンは、にこりともしない仏頂面で、わたしを見つめたまま、不動のピースサインの残像を残し、お母さんにぐいぐい手を引かれて、そして見えなくなった。
ああ、良かった。なんとかうまく乗り越えた。
「お待たせいたしました」
そう言いながら、次のお客さんの、食品がたくさんつまったカゴを引き寄せる。
「いいのよー、可愛い男の子だったわねえ」
「そうですね……」
いちばん上に乗っているもの。
これは。
ふるえる手で、ぎょろりとわたしを見つめるニジマスのパックを手に取り、バーコードをスキャンした。
ニジマスは、わたしに目玉を向けたまま、お客さんのマイバスケットにおさまった。
まだ見つめてる。
まだ見つめてる……。
終
「好きじゃないのに」
みられてる。
すごいみられてる。
あいつ、乾いたまんまるい目で、わたしのことをじいっとみてる。
好きじゃないのに、わたしは。全然。
ぜったいに目にしたくないのに。
わたしの前に来てほしくない。
好きじゃないのに!
わたしの中に入れたくない!
なのに。
「焼き魚なら食べられるって言うから、そうしたのよ。さっさと食べなさい」
やっぱりダメ……。
完