やさか

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3/4/2024, 3:38:37 PM

 飴玉をあげたかった。
 大きくてきらきらの、ストロベリーのやつを。
 アイスクリームをあげたかった。
 甘くとろける、バニラとクッキーのやつを。
 チョコレートをあげたかった。
 素敵な缶からに入った、宝石みたいなやつを。
 花束をあげたかった。
 優しい色の、ばらとかすみ草でできたやつを。
 指輪をあげたかった。
 ささやかに輝く、ダイヤモンドのついたやつを。
 僕の一生をあげたかった。
 たいしたことなくても、誰より君を愛してるやつを。


 #大好きな君に

2/22/2024, 1:50:51 PM

 美しくて、少し寂しい人だった。
 どうして「寂しい」と思うのか、よくわからない。
 軽く伏せた睫毛の向こう側で、黒い瞳があんまり静かに見えたから。それとも、いつもささやかに微笑うくちびるの端に、時折、笑みとは違う角度を宿していることがあるから。
 あのひとはいつも、夕の陽に似ていた。
 眩しさの背中に、宵の暗さを柔らかく纏っていた。
 けっして輝かしいばかりではない人だったのに、あのひとはわたしにとって、沈まぬ太陽のような人だった。
 わたしはあのひとが好きだった。たぶん、誰よりも。


 #太陽のような

2/19/2024, 2:02:36 PM

 自分もいつか、この枝を離れていく。
 わたしたちはやがて、今の枝を失う。
 日差しの下で、風に乗ってさらりと。
 あるいは雨の雫の重みで、ほろりと。
 星の瞬きに押されるようにするりと。
 さよならの時を着飾って散っていく。
 どこへとも知れず、いつとも知れず。
 頬に感じるものだけを頼りに行こう。
 目を瞑っていても、きっと怖くない。


 #枯葉

2/18/2024, 1:02:11 PM

 昨日と今日と明日とをほんとうに隔てているのは、時計の針ではない。
 深夜、時計の上ではもう昨日だけど、この瞬間はまだ今日で。
 時計の上ではもう今日だけど、夜明けの先には、まだ明日が控えている。
 わたしたちはそんなふうに、真夜中の底で時間を曖昧にする。
 午前一時二十三分。今日からはみ出した今日。本当は明日だったはずの今。
 布団に入って目を閉じて、今日もまた、カギカッコつきの『今日』にさよならをする。
 わたしたちは毎日、瞼で日付を切り分けるのだから。


 #今日にさよなら

2/16/2024, 1:44:11 PM

 きっと誰よりも激しく君に恋をしていたのだけれど、それを愛だと呼ぶほど厚顔にはなれず、だからこの恋はそっと殺しておきます。
 きっと誰よりも狡猾に策を巡らせていたのだけれど、それを愛のためと言うほど嘘つきにはなれず、だからこの腕は静かに下ろしておきます。
 きっと誰よりも賢しらに諦め続けてきたのだけれど、それを愛してもらおうという気にはなれず、だから私はここで佇んでいます。


 #誰よりも

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