飴玉をあげたかった。
大きくてきらきらの、ストロベリーのやつを。
アイスクリームをあげたかった。
甘くとろける、バニラとクッキーのやつを。
チョコレートをあげたかった。
素敵な缶からに入った、宝石みたいなやつを。
花束をあげたかった。
優しい色の、ばらとかすみ草でできたやつを。
指輪をあげたかった。
ささやかに輝く、ダイヤモンドのついたやつを。
僕の一生をあげたかった。
たいしたことなくても、誰より君を愛してるやつを。
#大好きな君に
美しくて、少し寂しい人だった。
どうして「寂しい」と思うのか、よくわからない。
軽く伏せた睫毛の向こう側で、黒い瞳があんまり静かに見えたから。それとも、いつもささやかに微笑うくちびるの端に、時折、笑みとは違う角度を宿していることがあるから。
あのひとはいつも、夕の陽に似ていた。
眩しさの背中に、宵の暗さを柔らかく纏っていた。
けっして輝かしいばかりではない人だったのに、あのひとはわたしにとって、沈まぬ太陽のような人だった。
わたしはあのひとが好きだった。たぶん、誰よりも。
#太陽のような
自分もいつか、この枝を離れていく。
わたしたちはやがて、今の枝を失う。
日差しの下で、風に乗ってさらりと。
あるいは雨の雫の重みで、ほろりと。
星の瞬きに押されるようにするりと。
さよならの時を着飾って散っていく。
どこへとも知れず、いつとも知れず。
頬に感じるものだけを頼りに行こう。
目を瞑っていても、きっと怖くない。
#枯葉
昨日と今日と明日とをほんとうに隔てているのは、時計の針ではない。
深夜、時計の上ではもう昨日だけど、この瞬間はまだ今日で。
時計の上ではもう今日だけど、夜明けの先には、まだ明日が控えている。
わたしたちはそんなふうに、真夜中の底で時間を曖昧にする。
午前一時二十三分。今日からはみ出した今日。本当は明日だったはずの今。
布団に入って目を閉じて、今日もまた、カギカッコつきの『今日』にさよならをする。
わたしたちは毎日、瞼で日付を切り分けるのだから。
#今日にさよなら
きっと誰よりも激しく君に恋をしていたのだけれど、それを愛だと呼ぶほど厚顔にはなれず、だからこの恋はそっと殺しておきます。
きっと誰よりも狡猾に策を巡らせていたのだけれど、それを愛のためと言うほど嘘つきにはなれず、だからこの腕は静かに下ろしておきます。
きっと誰よりも賢しらに諦め続けてきたのだけれど、それを愛してもらおうという気にはなれず、だから私はここで佇んでいます。
#誰よりも