私は行きたくないと思ったら、梃子でも動かない。
父が「さあ行こう」と何度も言ってきたのを無視して、本を読んでいたら、父に体育座りの状態のまま、まるで荷物を運ぶかのように持ち上げられて運ばれた。
父、ひょろい見た目なのに意外と力があるな、そんなに私と一緒に行きたかったのかと思った。
水たまりに映るロマンチックすぎる夕焼け空を見ていて、申し訳ない気持ちになってくる。
一緒に見ている相手が恋人ではなく、母で、親子で見る光景ではないと思った。
写真に撮ったのだけれど、ロマンチックすぎて何度見ても思わず笑ってしまう。
「ねぇ、書くもの忘れちゃったから、何か貸してくれない?」と彼女に言われて、ペンケースの中を探して、あまり使っていないシャーペンを渡した。
僕がいつも使っているものを使うのは彼女は嫌かなと思ったからだ。
「ありがとう」と言って彼女が離れていく。
授業が終わって「貸してくれてありがとう。それ、使い心地がいいね」と言って、彼女は微笑んで貸していたシャーペンを僕に返した。
ドキドキしてしまったのは、恋か、愛か、それとも、彼女と初めて話したことによる緊張のせいだったのか分からない。
私は負けず嫌いだ。
「勝ち負けなんて関係ないよね」って皆が言っていたら、表面上では同意するけど、心の奥底ではやっぱり勝ちにこだわってしまっている。
本当は勝ちにこだわりたくなんてないのに、いつも勝ちにこだわってしまっている。
勝ち負けなんて関係ないって言える人のことが、羨ましい。
彼は渡り鳥のようだと思った。
たまに来て一定期間過ごしたら、またどこかに行ってしまう。
「ここにずっと住まないの?」と訊くと、「ずっとここに住むのには合わない」と彼は言っていた。
ここにずっと住んでいる自分を前にして言うことではないと思ったが、そんな考えの彼をいつも許してしまい、またそろそろ彼が来る頃だろうかと待ちわびている自分がいる。