駅前の和菓子屋さんの寒い季節限定の芋ようかんがとても気に入っていた。
ショーケースに並べられた和菓子を見て、欲しいものを店員さんに言って買う形式だったので、買いにくくて、頻繁には買えていなかったけれど。
その和菓子屋さんは何年か前に、いつの間にかなくなってしまっていた。
駅前にあったのは支店で、本店があるという情報を得て、本店があるらしい場所を探してみたけど、道に迷ってしまって辿り着けなかった。
もう二度とあの芋ようかんを食べられないかもしれない。
駅前にあった時に、もっと買いに行っていればよかったとちょっと後悔している。
「もう一緒にいなくていい」
「なんでそんなこと言うの?」
あなたがわたしのためだと思ってしたことを、裏切りだと思って傷ついて、今でも許せないと思ってしまっていることをあなたに気付かれたくないから。
あなたがわたしの兄を一番大切に想っていることに気付いてしまったから。
わたしが出ていくと言ったら、いつも不機嫌そうだった兄が嘘みたいに機嫌が良くなって、これで正解だったのだと思った。
それなのに、ずっと心が雲って晴れない。
暗い部屋に扉から外の光が入って、眩しくて目を開けてられなくて、下を向く。
「気づいてあげられなくて、ごめんね」
あなたが責任を感じて謝る必要なんてないよと思ったけど、言葉が出なかった。
話をたくさんしてくれたけど、1人になりたくて、返事をするだけになってしまう。
「...じゃあ、行くね。バイバイ」
「うん、バイバイ」
パタンと扉が閉まる。
眩しくて顔をあげれなかったけど、さみしそうな声だった。
もっと一緒にいてもいいと言っていたら、違っていたのかな。
商業施設の中にあった小さな水族館で、「この魚、ずっとこの色の魚にくっついてる!」と彼女が言ったので、一緒に水槽を見て、「本当だ、他の同じ色の魚もくっついてるね」と言って、2人でしばらく見ていた。
そろそろ他の所に行こうと思って、彼女を見ると、まだ熱心に魚を見ていて、魚を観察するのも好きだったんだなと、彼女の新たな一面を知った。
中学校で女子の間だけで友達同士で手を繋いで帰るというのが流行った時があった。
その時、私は3年生で、噂では1年生の間で流行りだして、それから全学年にとなったらしい。
理由がよく分からないまま、私も友達と手を繋いで帰っていたけど、手を繋ぐと、今までよりももっと仲良くなれた気がした。
流行りだしたのは突然だったので、何がきっかけだったのか今でも分からないけど、流行りがなかったら、中学で友達と手を繋いで帰ることなんて無かったんだろうなと思う。