いつもと違う道から家に向かって帰るだけで、よく知っているはずの近所の場所なのに、全然違う場所に思えて、「ねぇ、ここどこ?」と母に訊いた。
「もう家の近くだよ」と母に言われたけど、知ってるけど知らないという不思議で変な感覚が家に着くまで消えなかった。
姉のおさがりのあざらしのぬいぐるみが大好きなものなのだと思う。
大きいサイズなので、抱きまくらみたいに毎日抱きしめて寝ている。
姉の家に泊まりに行った時もわざわざ持っていって、姉に子供っぽいとかそろそろやめなよって言われてしまうかと思っていたら、「あざらしさん、今も大切にしてもらってて幸せだね」と姉が言ってくれた。
まだ一緒にいてもいいんだって嬉しくなった。
「話はあたしが作るから、あんたが漫画を描いて2人で漫画家になろうよ」なんて言っていたあの子は、今は違う夢に向かっていっている。
絵は美術の授業や修学旅行の文集で描いていたけど、下手で動きのある絵なんて全く描けなかったから、元々叶わない夢だったのだ。
私が出来るのは、こんな話が読みたいというリクエストくらいだったと思う。
それももう今は叶わないことだけれど。
すごく好みな良い香りがすると喜んでいたら、「えっ、それ前に好きだって言ってたやつだよ」と言われたけど、分からなくてネットで調べてみた。
金桂花茶とは、キンモクセイ茶のことだった。
最初から言ってほしかった。
好きだから、好みな香りなの当たり前じゃないか。
気付けなかったのが悔しい。
母と姉とたまには温泉のあるホテルに泊まろうということになって、部屋に入った途端、寂しい気持ちでいっぱいになった。
部屋を出たら、寂しい気持ちはなくなっていて、温泉を満喫したけど、部屋に戻ったら、また寂しくて仕方がなくなった。
敷かれた布団がちょっと離れていたからかもしれないと思って、近付けたけど、寂しい気持ちがなくならない。
寂しくて仕方がなくて、寝れなかったので、母に手を繋いでもらったら、少しだけ気持ちが落ち着いた。