窓を開けると、冷たい空気が喉を刺す。眠気が吹っ飛び、全身に血が駆け巡るのを感じる。ベッドに戻りたい煩悩なんて忘れて、一気に目が覚める。そして、身を切るような寒さに体を震わせる。
毎日、毎日、これを繰り返している。朝日を浴びると体にいいだとか、新鮮な空気を部屋に取り込むべきだとか。自分磨きにハマった時にネットの情報を鵜呑みにして、何となく始めてみた。それが今も続いている。
本当にこんなことに意味があるのだろうか。文明が生み出した温かい空間を捨てて、毎朝こんな寒空に一人佇んでる。風邪をひいてしまったら元も子もないじゃないか。頭の中で、意地悪な声が語りかけてくる。確かにその通りだ。でも……
「こうしてると、まだ君と繋がってる気がするから……」
君がいなくなってからもう2ヶ月と少し。僕は毎日空を見てる。ベランダに出ると、目が勝手に君を探してしまう。太陽よりも明るい笑顔で「おはよう」って言う君の顔を。
「いい加減成長しろよ」
呆れたように自分にそう言って聞かせる。多分、まだ変われないだろうなって、わかってるけど。
軽い溜め息を吐いて、ノロノロと部屋に戻る。太陽のいないベランダは、今日もどんよりとした曇り空だ。
『物憂げな空』
ドクン、ドクンーー
私の手の中で、小さな心臓が力強く音を鳴らす。肌に伝わるその温もりが、その子が存在することを実感させる。小さな身体を懸命に震わせ、大きく声を上げる。
私は生きてる!
世界にそう訴えかける。今にも消えてしまうんじゃないかと思える弱々しい身体で、文字通り命懸けで、世界に自分の存在を証明しようとしている。
『小さな命』
私は、もうどうしようもなく捻くれてるからさ、本当は無難な言葉は使いたくないんだよ。使い古された、みんなが言ってることに、そこまで価値を感じない。あなたは、私のそういう一面すらも面白がって、「かわいい」って言ってくれる。
でも知ってる。あなたも本当は、少女漫画みたいな、ベタな体験をしてみたがってることを。今まで、気づかないフリしてごめん。あなたの優しさに、甘えてた。
今日は、今日くらいは、精一杯勇気を出してみるよ。あなたにとって、一生に一度の大切な日だから。
練習した通りに跪いて、白い箱を差し出す。口から出た言葉は、酷くぎこちなかった。
『love you』
貴女は一体どこに行ってしまったの?
私を置いて、さっさと自分の人生を歩み出した。私には何もわからないのに。貴女が何で悩んでいたのか。何で苦しんでいたのか。何もわかってなかった。それがやっとわかったのに、貴女はもう私から離れてしまった。
「最後に一度くらい会わせてよ」
それすら言えないようなヘタレだから?
優しいとこが好きって言ったのはそっちじゃん
何を考えてるのか、ちゃんと話してよ……
考えが止まらない。まとまらない。
ねぇ、貴女だけなんだよ。こんなに私の心をざわつかせるのは。こんなに心を抉られるのは。
どこにいるのか教えてよ。
会いたいんだよ。それだけでいいのに……