もう秋の風が吹き始めた。
あれからもう3ヶ月だって。
まだ昨日のことのように感じる。今日までどうやって生きてきたのかもわからない。
インターホンが鳴る度、今でも少し期待してしまう。あなたが現れるわけないって、頭ではわかってるのに。
冷たい秋の風が部屋の中を通る。
この風が、私をあなたの所まで連れて行ってくれないかな。
「どうせ上手くいかない」
「お前はなんてダメなやつなんだ」
頭の中を延々こだまし続ける。自分の一部のくせに、四六時中自分を打ち負かそうとして、やめてくれることはない。無視すればいいってわかってても、アイツは的確に聞きたくない言葉を刺してくる。
もういいよ。わかったから。
本当の悪魔は、人の頭の中にいるのかもしれない。
オレンジ色に染まった森の中を歩く。その横顔を盗み見る瞬間が何より幸せなんだ。近くて、遠くて、触れると壊れてしまいそうな絶妙な距離感。もどかしくて、苦しい。もういっそのこと全部ぶちまけてしまいたい。迷惑だろうと構わない。この胸の内をあなたに曝け出したい。頭の中の悪魔が今日も囁いてくる。
でも、あなたの答えはもうわかってるから。
「最近涼しくなってきたよね」
「そうだね」
こんな無難な会話しかできない。こんなに近くにいるのに。出会ってからもう半年も経った。あなたは何にも気づいてくれない。それか気づいてても無視してる。
そんなあなたが憎らしくて堪らない。
冬になったら、凍えるような世界に一人で放り出すくせに。どうして私はあなたのものになれないのだろう。
少し冷たい風が吹いた。私は行き場のない右手を、そっとポケットに仕舞い込んだ。
時が忘れさせてくれる。
今は苦しいだろうけど、時間が必要なだけ。
トモダチは皆そう言う。
でも、違うの。忘れたくないから苦しい。何もかも覚えていたい。幸せだった時間を失いたくない。私のポッカリ空いた心の穴をそんな簡単に埋めてほしくない。
神様お願い
時間を戻してなんて贅沢言わないから
ずっと苦しむから
今を永遠に生きさせて
暗い夜空に、明るい月が一つ。何にも依らずただ一人で懸命に輝く姿ーー誰かを思い出す。
「やめろ」
そこまで考えて自分に言い聞かせる。月に他者投影するのは、流石にどうかしてる。でもな……
真っ黒な夜空を優しく照らす、道標のような月。変なこと考えたせいか、なんだか自分のことを見守ってくれているような気がした。
『月夜』