僕は手を振る。
君はもう振り返ってくれない。
僕と君の最期の別れ。
昨日までは「また明日」って言ってたのに。
「明日」が来ることになんの疑いもなかったのに。
なんで今日は「明日」がないの?
僕は君に「また明日」って言うけれど、
君は答えない。
苦しいね。
涙で前が見えない。
君と「明日」を迎えたかった。
僕に「明日」は来ない。
君が涙を堪えてるのは分かってしまったから。
僕はずっと君と一緒にいたかった。
───大好きだよ。
貴女には一生響くことの無い愛を叫ぶ。
何回叫んでも、響かない。
でも伝えずにはいられない。
なんで、貴女は同性の、先生なの?
僕の愛は本気だよ。
でも、本気にはしてくれない。
伝わらなくても、僕は毎日愛を叫ぶ。
だって、僕は貴女が好きだから。
大好きだよ、先生。
僕が今日見た景色は、いつまでも忘れられないものになるだろう。
今日は全国大会。
高校3年間という時間を部活に費やし、この日を迎えた。
やっとこの舞台に立てたという嬉しさ。
直ぐに負けてしまうかもしれないという不安。
試合が始まれば、必死になるから、緊張などしない。
早く試合よ、始まれ。
───コテェ
声が響く
足音が響く
息が聞こえる
───ファイトォー、いいとこー
声援が聞こえる
最高の舞台だ。
次、勝てば入賞。
相手は優勝候補。
最後は楽しむと決めていた。
色んな人に応援してもらって立てた舞台。
こんなに素晴らしい舞台を用意してもらった僕は幸せ者だ。
同じ高校の仲間、同じ県の仲間、東海の仲間。
先輩の声、同期の声、後輩の声。
先生のアドバイス。
僕は独りじゃなかった。
とても多くの人に声をかけてもらって気にかけてもらった。
遂に、試合が始まる。
こんなに大舞台に立つのも、こんなに声援が聞こえるのも初めてのことだ。
ワクワクする。
───1本あり、勝負あり
僕は負けてしまった。
悔しかった。
でも、試合が終わった時、会場は暖かい大きな拍手で包まれた。
僕を応援してくれていた仲間たちが、僕に大きな拍手を送ってくれた。
試合に負けた悔しさよりも、多くの人に応援してもらっていたんだという事実が嬉しくて。
そして、感謝の気持ちでいっぱいだった。
僕はこの景色を、忘れないだろう。いつまでも。
僕は色盲だから、見える色が限られている。
みんなとは違う世界が見えている。
幼稚園の頃、お絵描きをしていたら、色が違うと先生から指摘された。
それからは、僕の見えている色じゃなくて、みんなが見ている色に合わせるようになった。
みんながこの色を使っているから、という理由で、同じ色で塗ったり。
だから、僕の目には、全てがちぐはぐに見えた。
服の色も分からないから、なるべく、白と黒の服を着るようになった。
個性がないと言われることも多かった。
そんな、ちぐはぐな世界を生きる僕に、みんなが見ている景色を見る機会があった。
感動動画などで見る、色盲を治すメガネは高価で買えない。
だから、持っている人に試しに貸してもらっただけなのだ。
それでも、僕はその一瞬だけ、カラフルな世界を見た。
そして、みんなと同じだった。
一瞬だけ。そう、僕の人生の中で一瞬だけ。
でも、どうにも落ち着かなかった。
当たり前だ、急にカラフルな世界に行ったんだ。
僕はカラフルな世界に着いていけない。
だから、これからも僕は、ちぐはぐな世界に生きていく。
僕は死んだら、アダムとイブのような楽園に行けると思っていた。
そう、幼い頃は。
今の僕は何を考えても目の色が変わらない。
早く死んでしまいたい。
そして、魂は消えてしまいたい。
そんなことしか考えていない。
死んでまで、楽園で魂が生き続けるなんてごめんだ。
幼い頃の僕は、夢と希望に溢れていたから、楽園だとか、天国だとか、そういった事にも夢を抱いていただけなんだ。
今の僕は、希望は潰え、夢も失い、どん底にいる。
うつ病だとか、そんなんじゃない。
周りはみんな、僕を精神科に連れていこうとするけれど。
うつ病の人は、もっと大変なはずなんだ。
だから、僕はその人たちと同じ立場になってはいけない。
でも、僕が存在している意味なんかない。
楽園なんか絵空事。
このまま綺麗さっぱり消えてしまいたい。