女性客が多いカフェ店内。
下心でバイトに応募したら、受かってしまった。
だが、覚えることが多いし、忙しいから女性客と話す暇がない。
「頑張ってるわねぇ☆偉いわよぉ♪」
無精髭で真っ赤な口紅を塗っているオネェ店長が、俺を褒めてくれた。
「新人君、このカフェはね、愛と平和をモットーにしているの」
「愛と平和ですか」
「そうよ。私達はお客さん達に愛を届けるのっ」
店長は両手でハートを作り、ウィンクする。
「ほら、新人君もやってやって」
「こ、こうですか?」
店長のハートを真似たが、ぎこちないハートしか出来ない。
「ふふ、まだまだね。大丈夫、すぐ出来るわよ」
「は、はい。頑張ります。あと、平和というのはなんですか?」
「たまにね、カフェの平和を乱す奴がいるの。まぁ、そんな奴がいたら……ただじゃおかねぇ」
店長は目検にシワを寄せながら、低い声で言った。
……店長を怒らせないほうがいいみたいだ。
「わ、分かりました。そんな客がいたら注意します」
「偉いわぁ♪見かけによらず男らしいのね。そんな子が私は好きよっ☆」
店長は少し距離を詰めながら俺に言った。
……あまり店長の機嫌を良くしないほうがいいな。
愛と平和をモットーにしているバイト先のカフェ。
忙しいけど、働きやすくて、あまりストレスを感じない良いカフェだった。
棚の隅に置かれていた高校の卒業アルバム。
数年ぶりに取り出すと、埃が被っていた。
適当なページを開く。
開いたページに載っていたのは、文化祭の時の写真。
皆、楽しそうな顔をしている。
……学生時代の頃は楽しかったなぁ。
大人になった今、毎日仕事の激務に追われ、あっという間に一年が過ぎていく。
時間の経過が、あまりにも早すぎる。
歳をとったなぁ……俺。
気がつくと、卒業アルバムを全ページ見てしまっていた。
部屋の片付けをしていて、卒業アルバムを捨てようかと思っていたけど……。
思い出として、青春の1ページとして、卒業アルバムを捨てずに置いておくことにした。
お金より大事なもの?
そんなものはない、お金が全てだ。
お金さえあれば、なんでも買えるし、愛だってお金の力で買えるぞ。
なので、お金より勝るものはない!はっはっはっ!
「あの人、可哀想」
「お金だけしか見てないから、周りのことは全然見えてないんだね」
なぜか、周りの人達は私を哀れな目で見てくる。
分からない、そんな目で見られる理由が……。
ま、別にいいさ。
私にはお金があるから!はっはっはっ!
夜空に浮かぶ真ん丸の満月。
自分は主役と主張するかのように光り輝いている。
昼間より、やっぱり夜のほうが落ち着く。
人も少ないし、歩きやすい。
最近、夜の散歩が日課になっている。
月の光を浴びてパワーを貰ってるから、前より元気になってきているかも。
数カ月前、仕事の働き過ぎで体調を崩して辞めることになり、それから家から出ることも嫌になって引きこもりになってしまった。
でも、このままではいけないと思い、人が少ない夜に外へ出て散歩したら結構動けたのだ。
そして、今に至る。
そろそろ仕事探そうかな……。
親からは無理しなくていいと言われたけど、気にしてしまう。
今ではネットで仕事探せるし、夜の仕事があるか検索してみるか。
月に向かって大きく背伸びし、全身に月の光を浴びた。
目の前にある、絆と書かれた扉と、金と書かれた扉。
今、究極の二択に迫られている。
絆か金……。
絆を選べば、今より深い絆が生まれる。
金を選べば、金は貰えるが絆が薄れてしまう。
まさか地元でこんなイベントをするとは思わなかった。
「どっちにするか選んだか?」
一緒にイベントに参加した田中が、俺に声をかけてきた。
俺も苗字が田中だったから、同じ田中同士という理由で意気投合し、中学時代からの親友だ。
「そっちこそ、どっちにするか決めたか?」
「ああ、もちろん。どっちにするなんて考えなくても、もう決まってるさ。これしかないからな」
田中は真っ直ぐ二つの扉を見つめる。
これしかない……か。じゃあ、あれだな。
「よし、行くぞ!」
「ああ!」
俺達は扉へ向かって走る。
俺は真っ直ぐ、絆の扉へ向かう。
もちろん田中も……あれ?
田中は金の扉へ向かっている。
「悪いな!今月ちょっとピンチなんだ!今回は金を選ぶぜ!」
「お前この……!バカヤロー!」
田中は金の扉を選び、絆が薄まりかけたが、金を三割分けてくれたので許してやった。