机の上に置かれた一冊の日記。
ページを開こうとしても、血で固まっていて開かない。
娘が自ら命を絶つ前に書いていた日記。
なぜ命を絶ったのか、この日記を見れば分かるはずなのだが……。
少しずつ、血で固まった部分を剥がしていく。
そしてようやく、ページを開くことが出来た。
そのページには……。
クラスメイトと思われる女子の名前を、カッターで何度も切った跡と、周りには赤ペンで書かれた複数の"死"の文字。
……なるほど、こいつが娘を追い詰めたのか。
お前の無念を、父さんが晴らしてやるからな。
娘が命を絶つ時に使った血塗れのナイフを持つ。
娘とツーショットの写真をポケットに入れ、娘と共に復讐へ向かった。
青空を覆い尽くしている灰色の雲。
木の葉が飛んでいきそうなくらい、強い風が吹いている。
すごく……寒い。
じっとしていると、身体が冷えていく。
でも、これくらいどうってことはない。
だって今日は……。
「ごめーん!待った?」
長い髪を揺らしながら、彼女が小走りでやってきた。
「全然!さっき来たところだから」
彼女の顔を見ただけで、身体の冷えは風と共に飛んでいった。
手を繋ぐと、彼女の手の温もりを感じて、思わずギュッと握ってしまう。
彼女もお返しをするかのように、ギュッと握り返してくる。
俺達はお互いの温もりを感じながら、久しぶりのデートを満喫した。
雲が嫉妬して逃げてしまうほどの綺麗な青空。
その下で、太陽の光を浴びている彼女。
これの光景を、美しいというべきだろう。
芸術作品にするべく、カメラを取り出し、彼女にレンズを向ける。
「あの……勝手に撮らないでくれる?」
「す、すいません。美しいものを見たらつい撮りたくなって……」
「次撮ろうとしたら警察呼ぶわよ!それから、もうついてこないで!」
彼女はそう言い捨て、去っていった。
……そう簡単に獲物を逃がしてたまるかよ。
彼女にバレぬよう、気配を消しながら跡をつけた。
この世界は、イカれている。
いつ頃だっただろうか。
AIが一気に普及し始めて、最初はネットの世界だけの存在だったのに、AI搭載の人型アンドロイドとして現実世界にまで現れた。
最初は人間の命令を忠実に従っていたが、日が経つにつれAIは学習し、命令を無視するようになってしまう。
そして、今では……。
人間とAIは敵同士になっている。
ドンッ、ドンッ、ドンッ。
地面を強く踏みつける重い足音。
俺はアンドロイドから逃げ、息を殺して隠れている。
ドンッ。
足音が止まり、まるで世界が終わったかのように静まり返る。
「……ぁ」
恐怖で、息が漏れてしまう。
ドンッ!
「しまっ——」
逃げようとした瞬間、アンドロイドに喉を掴まれて息が出来なくなり……世界が……ゆっくりと……閉じていった。
青空に引かれた一直線の飛行機雲。
どうして、俺は地上にいるのだろう?
どうして、俺は生きているのだろう?
どうして、俺は空を見ているのだろう?
親友に疑問をぶつけると、嫌な顔をせず答えてくれた。
「そういうのは考えても仕方ないぞ。まぁ気楽にいこうぜ」
親友はそう言って、炭酸飲料缶のプルタブを開けて、グイッと飲んだ。
俺も持っていた炭酸飲料缶のプルタブを開けて、グイッと飲む。
喉にシュワシュワの炭酸が通り、スカッとした気分になった。