青空に引かれた一直線の飛行機雲。
どうして、俺は地上にいるのだろう?
どうして、俺は生きているのだろう?
どうして、俺は空を見ているのだろう?
親友に疑問をぶつけると、嫌な顔をせず答えてくれた。
「そういうのは考えても仕方ないぞ。まぁ気楽にいこうぜ」
親友はそう言って、炭酸飲料缶のプルタブを開けて、グイッと飲んだ。
俺も持っていた炭酸飲料缶のプルタブを開けて、グイッと飲む。
喉にシュワシュワの炭酸が通り、スカッとした気分になった。
青空の下で、こっちに向かって笑顔で手を振っている彼女。
俺も彼女に向かって、手を振る。
地上には、色とりどりの花畑。
ここは俺と彼女の二人だけの夢の世界だ。
現実では、彼女は事故で亡くなった。
現実を受け入れられない俺は、夢の世界へ彼女に会うために、永遠に夢を見ることが出来る装置を開発したのだ。
俺は死ぬまで、夢の世界にいるつもりだ。
彼女がいない現実は、俺の居場所じゃない。
彼女がいるこの夢をずっと見ていたっていいじゃないか……。
俺は彼女の元へ駆け寄り、力いっぱい抱き締めた。
高い天井の窓から射し込む太陽の光。
ここには、物が一つもない。
あるのは、天井の窓と、鍵が掛かったドア。
今、何月何日で、何時だろう?
ガチャッ!
ドアの鍵が解除される大きい音に、思わずビクッ!としてしまう。
ドアが開き、奴が入ってきた。
「おはよ〜。元気〜?」
明るい声で話しかけてくる奴。
もちろん、元気なんかあるはずもなく、返事する声も出ない。
「まっ、私を熱い視線で見れるなら大丈夫そうね」
熱い視線ではない、睨んでいるんだ。
「……なぁ、いつここから出られるんだ?」
絞り出すように声を出し、奴に問う。
「私と結婚してくれるならすぐに出してあげるわよ♪結婚してくれる?」
「お断りだ」
奴は俺のことをずっと前から知っていたらしいが、俺は奴のことは全く知らない。
夜の町で声を掛けられ、バーで一緒に酒を飲み、気がつくと……手錠を掛けられた状態で、この部屋に居た。
多分、俺は誘拐されて監禁されたのだろう。
時計もカレンダーもスマホもないから、あの日から何日経ったか分からない。
「あなたが結婚してくれるまで、ずっとこのままよ。またあとで来るから♪ちゅっ♪」
奴は俺に投げキッスをして、部屋から出ていった。
ガチャッ!
再び、ドアに鍵が掛かる。
閉め忘れてくれれば、チャンスはあるのに……。
一体、俺はいつここから出られるのだろう。
上を見上げると、太陽が心配そうに、俺を見ていた。
空に広がる灰色の空。
今にも、雪が降りそうだ。
「ヒュ〜!」「ゴォ〜!」と音を立てながら強い風が吹く。
厚手のジャンパーを着ていても、すごく冷たくて寒い。
手をジャンパー内に引っ込め、早歩きする。
いつもの日課で散歩していたが、今日はやめておいたほうがよかったかもしれない。
……早く帰って、温かいコーヒーを飲もう。
ペンギンの歩き方になりながら、急いで散歩コースを歩いて家へ帰った。
スーツや着物を着た若者達が溢れかえっている市民会館。
なんでこんなに若者がいるんだろう?と思ったが、今日はここで成人式をするらしい。
ということは全員、二十歳か。
キラキラ輝いていて、眩しく見える。
俺も二十歳の頃は、多分キラキラしていたと思う。
当時は内定も貰っていて、社会人として頑張るぞ!と意気込んでいたが……。
仕事が自分に合わなすぎて、一ヶ月で退職。
それから別の会社に面接を受けるが、なかなか内定を貰えず、バイト生活の日々。
バイトの給料で生活は出来ているから、バイトのままでいいかと思い、気がつくと十年以上経っていた。
今の俺は、もう輝きすらない。
あの若者達は、いつまで輝けるかな?
……まっ、俺が気にすることではないか。
人それぞれの人生だしな。
ギャーギャー騒いでいる若者達を横目に、俺はバイト先へ向かった。