誰もいなくなった静かな教会内。
十字架の前でしゃがみ、祈りを捧げる。
毎日こんなに祈っているのに、いつになったら願いは叶うのだろう?
「女性全員が嫉妬するほどのイケメンが、白馬に乗って私を迎えに来て、セクハラしてくる牧師を一発殴ってくれる……それが私の願い」
「そんな欲望まみれな願いは絶対に叶わんぞ」
後ろを振り向くと、牧師が立っていた。
これは……まずい。
「な〜んて♪冗談ですよぉ牧師様ぁ♪」
「シスター、しばらく教会の掃除は一人でするように」
「……はい、牧師様」
やっぱり、私の祈りは神様に届いていないんだ。
私は十字架に向かって、あっかんべーしてやった。
カップルが多く歩いている商店街。
そういえば、今日はクリスマスか。
カップルが手を繋いで歩いているのを見て、去年別れた彼女のことを思い出す。
去年のクリスマスに、彼女と手を繋いで歩いていた。
人気が少なくなった所で、彼女は急に手を離し、真剣な表情で俺にこう言った。
「あのね、私……好きな人が出来たの。だから、別れてほしいの」
まさかクリスマスに言われるとは思わなくて、しばらく思考停止してしまう。
……彼女は可愛いし、俺とは不釣り合いだったのだろう。
まぁ、付き合えたことが奇跡だったし。
もっと、俺が彼女に相応しい男だったら……。
「分かった。少し寂しくなるけど、君の幸せを後押しするよ」
「あなたって……ほんと優しいんだね。ありがと」
最後に見た彼女の表情は、悲しそうな表情だった。
あれから一年。
彼女は、新しい彼氏と幸せに過ごしているだろうか?
連絡して聞いてもいいが、そんな勇気はない。
……彼女のことを思い出していると、手が急に冷えて、カップルを見るのが辛くなってきた。
早足でさっさと商店街を抜けて……あっ。
「あっ」
別れた彼女が……前方から一人で歩いてきた。
目が合い、お互い立ち止まる。
しばらく重い沈黙が続き、俺から口を開く。
「……やぁ、久しぶり」
「うん、久しぶりだね」
俺が声をかけると、彼女は笑顔になる。
多分、俺も、笑顔になっていたと思う。
外から微かに聞こえるクリスマスソング。
長年ここで骨董品屋をしているが、客はだんだん減り、今では一日に客一人来るか来ないかだ。
まぁ、私はここが好きだから店を閉める気はない。
店内に置いているキャンドルの火がゆらゆらと揺れる。
どうやら、客が来たようだ。
「メリークリスマぁス!」
店内に入ってきたのは、サンタの格好をした男性。
「いらっしゃい。何をお探しかな?」
「ふぉっふぉっふぉっ。プレゼントを貰いに来た」
サンタの格好をした男性は、おかしなことを言う。
プレゼントを渡す側が、貰いに来るとは、どういう意味だ?
「ジジイ、金出しな!」
サンタの格好をした男性はポケットからナイフを取り出し、私に向けた。
どうやら、強盗らしい。
「客がいない店を狙うとは考えたな。だがな……」
レジの下に隠していたショットガンを取り、サンタの格好をした男性に向ける。
「相手が悪かったな。私は元猟師だ。一撃で仕留めてやるぞ」
「やだなぁ爺さん。クリスマスジョークだよ……よ、よいクリスマスをぉぉぉ!」
サンタの格好をした男性は、慌てて店から出ていった。
キャンドルの火は大きく揺れ、消えてしまう。
まさか強盗が来るとは……。
因みに、このショットガンには弾は入っていない。
あのまま切りつけられてたらと思うと、ゾッとする。
まったく……この町も物騒になったものだ。
扉に鍵を掛け、キャンドルに再び火をつけた。
眩しい光が差し込んでいる回廊。
外の光景は光で見えず、ただ眩しいだけ。
確か、俺は入院していて……。
そうか、俺は死んだのか。
ということは、ここは天国?
……とりあえず、進んでみよう。
進むたびに、今までの思い出が外に映し出される。
俺は身体が弱くて、学校をよく休んでいたけど、友達は多いほうだった。
すごく、恵まれていたと思う。
もう皆に会えないと思うと辛いな。
落ち込んでいると、光が俺を励ますように身体を包んでくれた。
まぁ、死んでしまったなら仕方ない。
天国で再会出来ることを祈って、一足先に行くことにしよう。
俺は回廊を進み、天国へ向かった。
夜空からひらひらと落ちてくる雪。
イルミネーションの光と合わさって、幻想的な光景になる。
「イルミネーションと雪、綺麗だね」
「ああ、そうだな」
彼女も、俺と同じことを思っていた。
彼女の手を握ると、少しだけ冷たい。
「手、あったかいね」
「君と一緒にいるからかな」
「ふふっ、私もだよっ」
俺の手を握り返してくる彼女。
これからも、この雪のように、彼女への想いが積もっていくだろう。
手を繋いで、お互い白い息を吐きながら、同じ時間を過ごした。