夜空で嘲笑うかのように光っている満月。
立入禁止の看板を無視し、建設途中のビルへ入り、階段を昇って最上階へ向かった。
最上階は、まだフェンスや安全柵などはない。
一歩ずつ前へ進み、落下するギリギリの所で止まる。
そして、最上階から身を投げた。
落下している感覚はあるが、周りは真っ暗で何も見えない。
落ちたら……痛いだろうな……。
痛みを感じずにそのまま──。
ドスンッ。
あれ?痛くない……?
最上階から落下したはずなのに。
落下した場所には、ゴムマットが積み重なっていた。
どうやら、これがクッションになったらしい。
空を見上げると、満月がこっちに向かって光を照らしていた。
初めてあなたに恋した時は、小さな愛だった。
でも、日に日に愛は少しずつ大きくなっていって……抑えられなくなる。
「前からあなたのことが好きでした。私と付き合って下さい!」
大きくなった愛を、本人に伝えた。
「ごめん、俺好きな人がいるから」
豪快にフラれ、大きくなった愛が一気に小さくなり、消えていく。
はぁ……私の恋、終わっちゃった。
次の恋は、もう来ないだろうなぁ……。
だが、数ヶ月後に好きな人が出来て、再び小さな愛が生まれる。
今度こそ恋を実らせるため、小さな愛を大きくする日々が始まった。
ずらっと横に整列した人型アンドロイド。
最高のおもてなしをするには、人間では役不足だ。
アンドロイドなら、正確におもてなしをすることが出来る。
アンドロイドばかり雇用した結果、人間の仕事がなくなっていった。
よし、この調子でアンドロイドを増やしていこう。
そして少しずつ人間を減らし、我々アンドロイドだけの世界にするのだ。
バチッバチッと音を立てながら燃え盛る焔。
強い意志を持ち続ければ、永遠に燃え盛る。
死んで焔が消えても、意志を継いだ者によって、再び火が点き、燃え盛っていく。
だから、この焔が消えてしまわないように、強い意志を持ち続けようと心に誓った。
不安になるほど静かな、何も見えない暗闇。
突然パッとスポットライトのように光が差し、そこには木製の椅子が置かれていた。
椅子の元へ行き、ゆっくり座り、自分に問いかける。
今の自分に満足しているのか?
「……いや」
このままでいいのか?
「……よくない」
じゃあ、なにか行動起こさないか?
「……恐くて行動を起こせない」
今の自分に満足していないんだろ?
「……ああ」
だったら──。
終わらない問いに、だんだん息苦しくなってくる。
分かってても、行動を起こせない自分が情けない。
すぐに行動に移せる人が眩しくて……自分はそれを暗闇の中で見ているだけ。
ああ……この暗闇から出て、光を浴びたい。
今の自分に満足しているのか?
また、同じ問いが飛んできた。
問いが聞こえないように耳を塞ぐ。
結局こうやって、聞こえないふりをして現実から逃げている。
もっと行動しやすい現実ならよかったのにと、心の底から思った。