すぐ後ろに迫ってきている濃い霧。
前には、光が見える。
あの光へ向かって走れば、全てが上手くいく。
だが、濃い霧がだんだん迫ってきて、背中に霧が触れる。
頑張ってここまで来たんだ、霧に包まれるもんか。
だって、ようやく自分の進む道を見つけたのだから……。
霧は背中から肩にかかる。
「追いつかれてたまるか!」
足が折れようと壊れようと構わない、必死に、死ぬ気で、光へ向かって走った。
肩にかかっていた霧は離れていく。
そして、手を伸ばし、光を……掴んだ。
光は手の中で光り輝き、迫ってきていた霧を吹き飛ばし、明るい世界へと変わった。
これが、自分が選んだ道……。
落とさないよう、どこかへ行ってしまわないよう、掴んだ光をしっかり握り締めた。
勉強机の上に置いている、木製の砂時計。
宿題や勉強をする時に逆さまにして、全ての砂が落ちるまで、集中するようにしている。
サーーー……。
静かな自室に、砂時計の砂が落ちる音だけが聞こえる。
心地良い音で、聞き入ってしまう。
おっと……いけないいけない、勉強しないと……。
握っているペンに再び力を入れ、動かす。
……あれ?砂の音がしない。
砂時計を見ると、砂は全て落ち切っていた。
今度は勉強に集中しすぎて、砂の音が無くなっていたことに気づかなかったとは……。
ペンを置き、休憩タイムに入る。
砂時計を逆さまにし、再び砂を落とす。
休憩タイムに聞く砂の音も、また最高なのだ。
夕陽が沈んでいき、暗くなっていく空。
星達は、夜空になるのを待っていた。
「た、大変だ!」
一つの星が、星達の元へ飛んできた。
「どうしたの?」
「なにがあったんだ?」
星達は心配そうに星の元へ集まる。
「星図がどこにもなくて……」
「ええっ!?」
「ほ、本当に!?」
星図がなくなったことを伝えると、星達はパニックになり、その場でぴょんぴょん跳ねたり、走り回る。
星図とは、星達が夜空のどこに並ぶか示してくれる図のこと。
星達は毎晩、星図を見て配置についているので、星図がなくなって大混乱だ。
「どどどどうする?もうすぐ夜になっちゃうよ?」
「んんんん……仕方ない。今日は好きな所に並ぼう」
「それしか方法はないか……」
夜空になると同時に、星達は空へ向かって飛んでいった。
「パパー、今日のおほしさま、なんかへん」
「ん?あー……ほんとだ。なんだありゃ」
親子が見上げた先の夜空には、星達が一ヶ所に集まって輝いていた。
ホワイトボードにマジックで書く音が響く教室。
今、数学の授業をしている。
ホワイトボードには数式がずらっと並んでいて、まるで呪文だ。
解き方がイマイチ分からず、睡魔が襲ってくる。
どうせ大人になったら、複雑な数式なんて使わなくなるし、覚えなくてもいいのに。
「みんなぁ!この数式の答えは分かるかぁ!?」
数学の先生が突然大きな声を出すから、思わず身体がビクッとしてしまう。
ホワイトボードには……愛-恋=と書かれている。
「田中ぁ!答えてみろぉ!」
「お、俺ぇ!?」
まさか当てられるとは思わなかった。
愛から恋を引くと……あれか?
「えっと……友達……ですか?」
「うおおおぉぉぉん!」
先生は積み上げたブロックが崩れるように教卓の上へ倒れ込み、泣き出した。
……意味が分からん。
まず問題の意味も、答えが合っているのかすら分からない。
その後、先生は教卓から動くことなく、チャイムが鳴るまで泣いていた。
噂によると、先生は好きだった女性に告白したけどフラれたらしい。
てか、生徒に恋愛数式を答えさせるな。
俺は好きな人すらいないのに、なんだか虚しくなってしまった。
真っ白の皿の上に乗った、妻が剥いてくれた梨。
皿と同じ色の白で、表面は輝くほどみずみずしい。
一口かじると、しゃりっと音を立て、噛むたびに果汁が溢れる。
飲み込むと喉が潤い、梨はまるで飲み物だ。
梨をそのまま食べるのもいいが……。
皿の横に置いていた梨チューハイの缶を取り、プルタブを開ける。
そして、口につけ、缶を上へ少しずつ上げ、チューハイを口の中へ流す。
ゴクゴクゴク……。
喉に炭酸を通らせるのは気持ちいい。
やっぱり……これだよな!
梨は梨でも、季節限定のチューハイに限る!
「ただお酒が飲みたいだけでしょ」
「……バレたか」
妻に呆れつつ、俺は梨と梨チューハイを交互に食べて飲んで、秋を満喫した。