学校中がお祭り騒ぎになっている文化祭。
賑やかな廊下を通り抜け、教室のドアを開けた。
教室内には、荒井さんが窓際の席に座って、外を眺めている。
僕は荒井さんが座っている席へ、ゆっくり向かう。
距離が近くなると、荒井さんの良い匂いが鼻につく。
席に到着し、深呼吸をしてから、荒井さんに向かって言った。
「荒井さん!僕と一緒に……文化祭一緒に回って下さいっ!」
荒井さんはこっちを向き、僕を見ながら口を開く。
「大人しいあんたが、ギャルの私を誘うなんてやるじゃん」
「えっと……荒井さんも大人しいよね?口調はギャルだけど、見た目は控え目だし……」
「ちょ!そんなこと言うなし!」
荒井さんのことは前から気になっていた。
見た目は真面目そうな大人しい女の子なのに、口調は真逆だったから。
本人によると、自分を変えたくてギャル口調で話すようになったという。
でも、クラスの皆から変な目で見られるようになり、誰も荒井さんと話さなくなった。
そして文化祭の今日、荒井さんは一人で教室にいる。
だから僕は、勇気を出して、荒井さんを教室から連れ出そうと思った。
文化祭を一人で過ごさず、楽しんでほしかったから。
「えっと……ど、どうかな?僕と一緒に文化祭、回ってくれないかな?」
「……ふんっ、仕方ないわね。折角勇気を出して誘ってくれたのに、断ったら可哀想だから付き合ってあげるわっ」
口ではそう言っているが、荒井さんは嬉しそうな顔をしている。
「なにニヤニヤしてるのよ!行くわよっ!」
荒井さんは席を立ち、僕の手を引っ張って廊下へ向かう。
今日は、楽しい文化祭になりそうだ。
雲達の侵略で支配された空。
どんよりとしていて、今にも雨が降りそうだ。
こういう天気の時に出掛けるか、非常に悩む。
途中で降ってきたら嫌だけど、結局降らなくて出掛けなかったことを後悔しそうだし……どうしようか?
しばらく悩んだ結果、出掛けることにした。
なぜなら、出掛けたい気持ちが勝ったからだ。
着替えヨシッ!財布ヨシッ!念のための折り畳み傘ヨシッ!
よーし、いざ外の世界へ!
ポツ……ポツ……ザーーー!
外へ出た瞬間、雨が勢いよく降り始めた。
どうしてこのタイミングで降り始めるのだろうか?
雨を降らしている空を睨みつけて、家へ戻った。
空高く伸びる虹の架け橋。
小さい頃、虹はどこへつながっているんだろう?と疑問に思っていたが、まさか天国へつながっていたとは……。
虹を橋代わりにして渡るなんて、まるで絵本に出てくる話のようだ。
よし……渡るぞ……。
「ちょっとあなた、止まりなさい」
虹に足を乗せようとしたら、天使に呼び止められる。
「あなたは天国行きではなく地獄行きです。生前に沢山の罪を犯してますから。さっ、階段を降りて地獄行きのバスに乗って下さい」
地面がパカッっと開き、階段が現れる。
虹の橋、渡りたかったな……。
俺は重い足どりで、階段を降りて地獄へ向かった。
既読がつかなくなった私だけのメッセージ。
"誕生日おめでとう"
毎年お祝いのメッセージを送るけど、既読はつかない。
あなたは、私より先に天国へ行ってしまった。
あなたのスマホは、遺品として私が持っている。
でも、まだどこかで生きている気がして……ふらっと目の前に現れるような気がして……。
もし帰ってきたら、スマホを返して、おかえりって言ってあげたい。
……分かってる。もう二度と帰ってこないことは。
分かってる……分かってるよ……。
目の前が滲み、メッセージ画面が歪む。
気がつくと、あなたのスマホを強く握り締めていた。
歩くたびに肌に当たる涼しい風。
やっっっと、気温が下がった。
長過ぎる夏がようやく終わり、遅い秋がやってくる。
待ってましたと言わんばかりに、あちこちではしゃぎながら飛び回る赤トンボ、楽しそうに合唱する鈴虫。
山を見ると、所々で模様替えが始まっていた。
最近はスーパーで梨やブドウを見かけることも多くなったし、食欲の秋も始まる……じゅるり。
でも、夏が長過ぎて、秋は一瞬で終わってしまう。
冬が来る前に、秋を堪能しないとね。
私は秋の味覚を堪能するために、スーパーへ早足で向かった。