山に囲まれ、田んぼに挟まれた田舎道。
あちこちで、蝉達が合唱していた。
目に見えるもの全てが緑で、すごく癒される。
都会とは違い、涼しくて快適だ。
母さんの実家である田舎へ久しぶりに来たけど、こんなにも落ち着くとは。
小さい頃はつまんない所だと思っていたが、大人になると見え方が変わる。
なぜ、ここに来たかというと……。
俺はこの夏、夏らしいことを一つもしていない。
なので、数日間の休みを利用し、夏を満喫しようと考えた。
拠点は母さんの実家。
じいちゃんとばあちゃんには連絡済みだ。
この田舎で、童心に戻って色々やってみよう。
スマホの電源をオフにし、夏を求めて長い田舎道を歩き始めた。
8月31日、午後5時。
スマホの画面に、そう映っていた。
まさか日曜日をほぼ一日寝て過ごしてしまうとはな……。
せっかくの休みが台無しだ。
いや、今からでもまだ挽回は出来る。
俺の日曜日は、今から始まるのだっ!
全力で挽回した結果、明日月曜日ということを忘れて夜更かししてしまい、寝不足で仕事に支障が出てしまった。
だが、後悔はしていない。
俺は全力で、日曜日を満喫出来たのだから。
でも今度の日曜日は、きちんと規則正しく生活しよっと……。
テーブルの上に並べられた二つの茶碗。
以前はひとりでいいと思っていたのに、ふたりだと、こんなにも気持ちが変わるのか。
「どうしたの?じっと茶碗を見つめて」
妻は料理が乗った皿をテーブルに並べながら、俺に言った。
「いや、ひとりよりふたりのほうが食事は楽しいなと思って」
「ふふ、料理もそんな風に褒めてくれたら嬉しいのに」
妻は悪戯っぽく笑う。
「も、もちろん料理も美味しいし、毎日作ってくれていつも感謝してる」
「なんか言わせた感じになっちゃったけど、ありがとっ」
毎日思っていることだけど、照れくさくて口に出して言えない。
思うだけじゃなくて、きちんと声に出して言わないとな……。
「よしっ、それじゃ食べよっか」
料理を並べ終えた妻は向かいの席に座り、手を合わせる。
俺も、手を合わせた。
「いただきますっ」
「いただきます」
ひとりの時は言わなかった食事の挨拶。
誰かと一緒だと、今までしていなかったことをするようになり、それが当たり前になる。
これからも、ひとりで出来なかったことを、ふたりで共有していきたい。
妻の作ったご飯は、今日も美味しかった。
空には分厚い雲が広がっていて、薄暗い世界。
私の心の中の風景は、いつもこんな感じだった。
でも、あなたという太陽が現れてから、分厚い雲から光が射し込み、世界が明るくなる。
誰かを想うというのは、世界を変える力を持っているんだと実感した。
あなたと話したい、触れたい、独り占めしたい。
そう思うだけで、ドキドキが止まらず、思わず駆け出してしまう。
分厚い雲を吹き飛ばし、あなたという太陽に手を伸ばす。
「あ、あの……お話……いいですか……?」
恐る恐る、勇気を出して声をかける。
「ああ、いいよ。俺も君と話してみたいと思っていたから」
あなたは温かい光で、私を出迎えてくれた。
私の心の中の風景は、これからもっと、今以上に、明るくてなっていくだろう。
刈っても刈っても庭にボーボー生える夏草。
砂漠化した私の頭も、こんな風に生えればいいのに。
まぁ、孫が「じぃじのあたま、たたきやすくてすきー」と言いながらペチペチ触ってくれるから、いっか。
だがな孫よ。
指人形を頭に引っ付けるのだけはやめてくれ。
痕がついて、頭が吸盤みたいになってしまうからな……。
今日の朝はまだ涼しいほうだし、夏草を刈っておくか。
刈る前に、まずは顔を洗ってスッキリさせよう。
洗面所へ向かい、顔を洗って鏡を見ると、頭の上に三体の指人形が引っ付いていた。
……孫よ、いつの間に付けたんだ?
私が寝てる間にか?
それにしても吸引力よすぎだろ。私の頭。
「はは!じぃじのあたま、にぎやかー!」
鏡に、私の後ろで頭を指をさしながら笑っている孫が映る。
「じぃじの頭は砂場だぞー!」
「きゃー!」
孫の方へ振り向き、ガオーと狼のポーズをすると、孫は高い声を出して笑う。
孫は走って逃げていき、私は顔が濡れたまま追いかける。
孫と遊んでいると時間は過ぎていき、夏草を刈ることを忘れてしまった。
まっ、刈るのは今度でいいか。
孫と過ごす時間のほうが大切だから。