人で埋め尽くされたライブ会場。
全員、私の単独ライブを見に来てくれたファン達だ。
現在全国ツアーの真っ最中で、今日は大阪に来ていた。
数年前の私が、今の私を見たら、きっとすごく驚くだろう。
全国ツアーが出来るほど、私は成長したから。
私はステージの真ん中に立ち、マイクでファン達に呼び掛ける。
「皆ぁーーー!私に好きなもの教えてくれるーーー?」
私の呼び掛けに、ファン達は「いいよーーー!」と答えた。
「じゃあ私がI love?って聞くから、そのあとに続いて好きなもの言ってね!いくよ!I love?」
「たこ焼きーーー!」
「551の肉まんーーー!」
「阪神ーーー!」
「串かつーーー!」
「通天閣ーーー!」
ファン達は、各々好きなものを叫んでいる。
「なんでやねんっ!私の名前を言ってよーーー!」
私がそう言うと、ファン達は笑い、会場が湧く。
これはライブでいつもやるコールアンドレスポンス。
今日は大阪でライブをしているから、ファン達は大阪にある物を言ってくれたみたい。
「皆、大阪バージョンで答えてくれてありがとう!それじゃ次の曲いくよーー!」
私はマイクをぎゅっと握り、ファン達に感謝を込めて歌った。
どんよりとした空から大量に落ちてくる雨粒達。
確か今日は傘を持ってきたはずなのに、私の傘がどこにもない。
多分、あの子達がどこかに隠したか、持っていったのだろう。
なぜか私だけをいじめてくる同じクラスのあの子達。
頑張って笑って誤魔化してるけど、そろそろ限界かもしれない。
今日は雨でよかった。
皆が傘をさして帰ってる中を、私は雨に打たれながら歩く。
雨粒達が私の負の感情と涙を洗い流してくれる。
ずぶ濡れで帰ったら、お母さんに怒られるだろうなぁ……。
傘無くしたし、ほんと、いいことがない。
「寺田さん、風邪ひくよ?」
誰かが、私を傘の中に入れてくれた。
横を見ると、同じクラスの田中さんが、心配そうな顔で私を見ている。
「で、でも私……」
こんな所をあの子達に見られたら、田中さんもいじめられるかもしれない。
傘から出ようとしたら、田中さんも一緒についてくる。
「気にしないで。私が勝手にやってることだから。それに、寺田さんのことが気になってたから」
優しい声で私を心配してくれる田中さん。
さっきの涙とは別の涙が出そうだ。
「ありがとう……田中さん」
「うんっ、一緒に帰ろっ」
私は雨音と優しさに包まれながら、田中さんと一緒に帰った。
太陽が元気過ぎる快晴の空。
そんな太陽の下で、俺は歴史的瞬間を目の当たりにしようとしている。
突然強風が吹き、前から歩いてきた若い女性のロングスカートが……大きく捲れていく。
スカートは膝を越え、太ももが露になる。
なんて美しい足なんだ……。
スカートの捲れ方といい、もし今スケッチブックと鉛筆を持っていたら、きっと素晴らしい絵が描けただろう。
スカートは太ももを越え、ピンクの──。
「しゃがみながらどこ見てるのよ!このスケベ変態野郎!」
女性は持っていた鞄をバットのように振り、俺の顔面に直撃した。
俺は地面に倒れ、女性はスカートをひらひらと揺らしながら去っていく。
もう少しで、歴史的瞬間を目の当たり出来たのに。
倒れながら空を見ると、太陽が俺を見て、ギラギラと笑っていた。
大地は荒れ果て、海は毒沼に変わってしまった世界。
生き物は我以外、存在しない。
どうしてこの世界は、こんなにも何も無いんだ。
一代目魔王は世界を滅ぼしたあと、することがなくなり、最終的に自ら命を絶った……と、我の記憶の中に残っている。
我は二代目魔王として、この世界に生まれたが、一代目魔王と状況は変わってない。
さて、これからどうするべきか?
滅んだ世界で一人は退屈だ。
一代目魔王と同じ道は辿りたくない。
しばらく世界を眺めながら考えていると、一つの答えに辿り着く。
……世界を再生させる。フハハ。
魔王である我が、神のような考えをして、思わず笑ってしまう。
まあいい。世界を再生させ、生き物を復活させたあと、再び我の手で滅ぼしてくれるわ。
海に手を向け、まずは毒々しい海から浄化を始めた。
銀色のアスファルトが続く長い一本道。
昔は土の道だったのに、アスファルトの道は固くて歩くたびに足が痛む。
道の周りにあった草木も家へと代わり、時代の流れを感じる。
君と歩いた道は、こんなにも変わってしまったよ。
初めて一緒に歩いたのは……学生の頃か。
君が学校から出てくるのを待ち伏せして、一緒に帰ってたな。
そんな私を、君は嫌な顔をせず、いつもニコニコしていた。
私は、あの笑顔に惚れたんだと思う。
一緒に帰ることが当たり前になり、いつの間にか手を繋ぐようになり、私達は結ばれた。
それからも、この道をよく一緒に歩いたもんだ。
私達の思い出の道だから、と言って。
だが、君は先に逝ってしまった。
君がいなくなってから、心にぽっかりと穴が開き、毎日物足りない生活を過ごしている。
君の存在が、すごく大きかったんだと思う。
私も、早く君の所へ……。
「あっ!おじいちゃん、またかなしいかおしてる!」
「わたしたちがいっしょだから、そんなかおしないで!」
孫達が、私の右手と左手をぎゅっと握る。
小さい手だが、力強さと優しさを感じた。
「おじいちゃんわらった!」
「えがおがいちばんだよ!」
「そうだな。ありがとう、二人共」
どうやら、私はまだ君の所へ行けそうにないみたいだ。
私は孫達と一緒に、長い一本道を笑顔で歩いた。