たーくん。

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4/9/2025, 12:32:21 PM

懐かしい名前がずらっと並んだ連絡先。
高校を卒業してから十年経つ。
いや、もうそんなに経ったのか。
成人してから、時間が進むのが一気に早くなったような気がする。
中学の友達や高校の友達は元気だろうか?
連絡……してみようかな。
メール機能を使うなんて、何年ぶりだろう。
数人にメールを送信したが、数秒でメールが戻ってくる。
……そりゃ、そうだよな。
登録しているのはメールアドレスだけで、電話番号は登録していない。
電話番号も聞いておけばよかったと、今になって思う。
「ま、縁があればまたいつか会うさ」
いつ再会するか分からない友に別れを告げ、連絡先を削除した。

4/8/2025, 11:23:53 PM

居間で寝転びながらタブレットを見ている小学生一年の妹。
何を見ているのか後ろから覗くと、タブレットの画面にはウェディングドレスが映っていた。
結婚に憧れるには早すぎるぞ、妹よ。
妹から離れ、ソファーに座り、テーブルの上に置いてあった炭酸ジュースを飲む。
喉に通る炭酸のシュワシュワが気持ちいい。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?」
「私が大人になって、まだお兄ちゃんが結婚してなかったら、私が結婚してあげるねっ!」
「げっほ!げっほ!ア“ァ“ァ“」
妹が変なことを言うから、咳と同時にゲップが出てしまった。
「こんな兄と結婚したいだなんて、お前は変わり者だな」
「だって、お兄ちゃん彼女いなさそうだし可哀想だもんっ」
「……ははは」
「十年後に期待しててねっ!」
キラキラな笑顔で妹は言った。
十年後か……。
それまでに、妹のためにも、頑張って彼女を作ろうと心の中で誓った。

4/7/2025, 10:36:43 PM

小さくて可愛い色とりどりの花束。
今日は私の誕生日であり、付き合って一ヶ月記念日。
この花束は、彼氏が私へのプレゼントでくれた物だ。
花束から石鹸の香りがする。
彼氏が言うには、これはソープフラワーという物で、入浴剤としても使えるらしい。
「それを使って二日に一回は風呂に入ってくれ。頼む」
彼氏は鼻をつまみながら、私に言った。

4/6/2025, 10:32:34 AM

いつ作られたか分からない古い地図。
もう何年も、地図が作られていないらしい。
なら、俺が世界中を旅して、新しい地図を作ってやるぜ!
旅に必要な物と食料をリュックに押し込み、家を飛び出した。
魔物に追いかけられ、死に物狂いでようやく港町に辿り着く。
リュックは逃げる時に落としてしまい、今は何も持っていない。
「金が無いからタダで船に乗せてくれだぁ?駄目だ駄目だ!小僧はさっさと家に帰りな!」
やはりタダ乗りは駄目だったか。
だが、俺には考えがある。
船に積み込む樽の中に隠れ、なんとか船に乗れたが……。
「クラーケンだ!皆逃げろーー!」
樽の外から悲鳴が聞こえ、船が大きく揺れる。
うえっぷ……酔いそう……。
樽が倒れ、横へ転がり、ザバーン!と海へ放り投げ出された。
……どれぐらい時間が経っただろうか?
樽の蓋を開けると、浜に打ち上げられていた。
どこだ……ここは?
そうだ、方位磁石と古い地図で位置を……。
どちらもリュックに入れていたが、もう手元にない。
新しい地図を作るどころか、今どこにいるのかすら分からなくなってしまった。

4/6/2025, 2:22:20 AM

家具が一つもない殺風景な広い部屋。
唯一、外へと繋がっている窓は天井にある。
だが、鉄格子が取り付けられているから外へ出ることは不可能。
何度見ても、この部屋はおかしい。
天井に窓があるということは、ここは最上階だろう。
ここがマンションの中なのかビルの中なのかも分からない。
目隠しされて連れて来られたからな……。
天井の窓から太陽の光が射し込み、まるでスポットライトのように部屋の真ん中を照らす。
鉄格子の影付きで、見るたびにここから脱出出来ないという現実を突きつけられる。
トッ……トッ……トッ……。
何度聞いたか分からない足音。
最初は恐怖を感じていたが、もう今はそんな感情すら感じない。
ドアの前で足音が止まり、“ガチャッ“と鍵を開ける音。
ドアが開くと同時に、あいつの声が入ってくる。
「やっほー、健司。ご飯の時間よ」
皿を持って入ってきたのは、京子という女。
「た~くさん食べてねっ」
そう言いながら床に皿を置く京子。
皿の上には、握り拳ぐらいの大きさのパンだけが乗っている。
食事は一日一回、昼食だけ。
男の俺には全然足りず、おかげで体重と体力は落ちていく一方だ。
「ねぇ、健司。私のこと好き?」
京子は、いつものお決まりの質問をしてきた。
この質問に答えたのは何度目だろうか?
百を越えてから、もう数えていない。
「好きだよ」
俺もいつものようにお決まりの返事をする。
「で、結婚してくれる気になった?」
「全く、これっぽっちもない」
「私のこと好きなのに?」
「そう言わないと食事が出ないから言ってるだけだ」
「……そっか」
肩を落とし、がっかりする京子。
こうやって結婚を何度も申し込まれる毎日。
俺は、京子のことを何も知らない。
京子は俺のことをよく知っているらしいが……。
合コンで初めて京子と会い、途中ですごく眠くなって、起きたら俺はこの部屋にいた。
もちろん、脱出しようとしたさ。
天井から脱出するのは不可能だから、ドアから出るしかない。
唯一部屋から出られるタイミングがあるのは、トイレと風呂。
その時は手錠をかけられる。
一度、京子の隙をついて逃げたが、あちこちに二重の鉄格子があり、全て電車ロックが掛かっていて脱出出来なかった。
まるで極悪人を管理している刑務所だ。
俺が結婚をOKするまで、自由になれないらしい。
「いつか結婚してくれるって信じてるから。またねっ」
京子は部屋から出ていき、ドアに鍵をかけて去っていった、
あんな女と結婚するぐらいなら……。
パンを口に入れ、味わって食べる。
まさかこのパンが、最後の晩餐になるとはな。
空になった皿を持ち、振り上げる。
思いっきり床に皿を叩きつけ、皿を割った。
トッ!トッ!トッ!
いつもより早い足音が近づいてくる。
早くしないと、あいつが来てしまう。
割れた皿の中で一番鋭いのを選び、手首に当て、勢いよく一気に引いた。
手首からドクドクと血が溢れ、意識がだんだんと遠のいていく。
人間って、こんなに血が入っているんだな……。
床に倒れ、天井を見上げると、ちょうど窓の真下だった。
「これで……脱出出来るぞ……へへっ……ざまぁみろ」
あの窓から出て、やっと……俺は自由になるんだ。
俺は、どこへ行くのだろう?
部屋に籠りっきりだったから、色んな所へ行きたいな。
目が重くなり、自然に目が閉じ、目の前が真っ暗になる。
“ガチャッ“と鍵が開く音。
ドアが開く音と同時に、あいつの声も入ってくる。
「健司!?そ、そんな……健司……」
京子の悲しそうな声を聞いて、俺は心の中でガッツポーズをした。
お前が好きになった男は、お前のイカれた行動で男を追い詰めたせいで、男は自害したんだ。
これから一生、永遠に後悔しながら生きていくんだな。
「でも、これで結婚出来るし、これからはずーーっと一緒だね。健司♪腐らないようにちゃんと保存しなくちゃ♪」
最後に聞いた京子の声は、喜びに満ちていた。

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