たーくん。

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4/4/2025, 12:30:28 PM

風が吹くたび、ひらひらと舞うピンク色の花びら。
今年も、庭の桜の木が満開になった。
桜を見ると、春が来たって感じがする。
「今年も咲いたのですね」
お嬢様の声を聞いて、我に返る。
しまった。桜が美しくて、つい見とれてしまっていた。
お嬢様を放置するとは、なんたる失態。
「申し訳ございません、お嬢様。お連れせず放置してしまって……」
「ふふ、それほど夢中だったのですね。私も見てみたいです」
お嬢様は生まれつき目が不自由で、ずっと暗黒の世界で生きてきた。
お嬢様の目として支えているのが、私だ。
「桜は確かピンク色……でしたっけ?」
「ええ、桜はピンク色で、見とれてしまうほど美しくて……」
今日のお嬢様のお召し物は、ピンクの着物。
そう、桜はまるで……。
「お嬢様のようですね」
「ふふ、お世辞かしら?」
「いえ!決してそんなことは!ほんとのことです!」
なにをムキになっているんだ私は。
「そんなことを言われたのは初めてです。こういう時、なんて言えばいいのか分かりませんが……すごく嬉しいです」
お嬢様の頬は、桜のようにピンク色に染まっていた。

4/3/2025, 1:07:14 PM

やはり、なにをするにも君と一緒がいい。
君と一緒に、楽しい時間を過ごしたい。
悲しいときや辛いときでも、君と一緒に共有したい。
どんなときも、君と一緒に居たい。
……これでよしっと。
俺は、“君“を求めて、数人の女性にメッセージを送った。

4/2/2025, 11:58:51 AM

雲一つない、快晴の空。
俺の隣で、彼女は空に向かって手を伸ばし、何かを掴むように、ぎゅっと握る。
「こんな風に、空の物が掴めたらいいのにね」
「地上と空は距離がありすぎて無理だろ」
「ふふ、そうね」
空を見ている彼女の顔は、どこか、悲しげだった。
「……私ね、もう長くないの」
「なにが?」
「命が」
「えっ」
突然のことで、頭が真っ白になる。
だが、付き合う前、彼女から言われたことを思い出した。
「私ね、生まれつき身体が弱いの。だから、あなたより先に死ぬかもしれない」
彼女は体調を崩すことが多く、よく通院していた。
俺も付き添いで付いていったこともある。
まさか、そこまで体調が悪化しているとは思わなかった。
「ごめんね、隠してて」
「謝らなくていいさ。まぁ、びっくりしたけど」
出来るだけ気にしていないように接するが、動揺を隠せない。
でも、これだけは言える。
「思い出、もっと沢山作ろうな」
「うん……ありがと」
だが、その思いも叶わず、一ヶ月に彼女は亡くなった。
二人の思い出の場所で一人、空を見上げる。
雲一つない、快晴の空。
この空のどこかに、彼女はいるのだろうか?
この空のどこかから、俺を見守ってくれているのだろうか……。
俺は空に向かって手を伸ばし、空にいる彼女の手を掴むように、ぎゅっと握った。

4/1/2025, 1:17:43 PM

「ハジメマシテ、ヨロシクネッ!」
エッ?モットシゼンニハナセッテ?
「はじめまして!よろしくねっ!」
えっ?もっと大人らしく話せって?
「はじめまして。これから、よろしくお願いいたします」
依頼者は、まだ不満そうな顔をしているが、これで満足してくれたようだ。
「では、いってきます」
依頼者に見送られ、今日から勤める会社へ向かう。
なぜ、我々アンドロイドが依頼者の……人間の会社へ代理で働かないといけないのだろうか?
人間の考えることは、よく分からない。
入社式に居た新入社員は、私を含め、全員代理で来たアンドロイドだった。

3/31/2025, 1:14:54 PM

今回は半年しか通えなかった小学校。
お父さんとお母さんの仕事の関係で、ぼくは何度も転校をしている。
クラスのみんなとは話をせず、友達を作らないようにしていた。
だって、いつまた転校するか分からないし、さみしい思いをするのはいやだから。
「元気でね」
「じゃあな」
「ばいばい」
転校するぼくに、クラスのみんなが別れのあいさつをしてきた。
どれも、よく言われるお決まりの言葉だ。
だけど、今回はちがった。
「またね!」
女の子が元気よく、ぼくに言った。
「あ、ああ……」
なんて返事をしたらいいか分からず、変な返事をしてしまう。
今までは、転校した小学校のことを思い出すことはなかったのに、この小学校と女の子が言った“またね!“の言葉は、いつまでも頭から離れなかった。

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