赤色灯がチカチカ点滅し、サイレンの音が響き渡る大渋滞の車道。
どうやら、事故があったらしい。
パトカーや救急車が止まっていて、人だかりが出来ている。
さっき通った時は、事故は起きていなかった。
もし、タイミングが悪かったら……と思うと、ゾッとする。
それにしても、どこにもあいつはいないじゃないか。
忘れ物をしたと言い、取りに戻った友達。
電話しながら探しているが、どこにもいない。
「なぁ、どこにいるんだよ?まさかあの人だかりに混ざってないよな?」
「ここだよ、ここ」
「どこだよ」
「上」
「上?」
見上げると、歩道橋があり、橋の真ん中で誰かが手を振っている。
「なんだそこにいたのか……ん?」
手を振っているのは友達だったが、頭から血を流し、服が赤く染まっていた。
俺は急いで歩道橋の階段を駆け上がり、友達の元へ向かう。
だが、橋の上には、誰もいなかった。
「おい!どこにいるんだよ!」
電話はいつの間にか切れていて、ツーツー音だけが虚しく鳴り続く。
「どこ行ったんだよあいつ……」
橋から下を覗くと見えたのは、頭から血を流しながら車道で倒れている友達。
警察の話によると、友達は事故に遭い、即死だったらしい。
……じゃあ、俺と電話してた、手を振っていたあいつは……誰だったんだ?
目の前に広がる果てしない海。
俺は彼女と一緒に海に来ていた。
やっぱり、海はいいな。
見ていると落ち着くし、潮の香りと波の音が心海良い。
「俺、海がすごく好きでさ。昔からよく来てるんだよ」
「ふぅ~ん……ねぇねぇ」
彼女は、俺の目の前に立つ。
海が見えなくなり、視界に彼女だけが映る。
「私のこと、好き?」
海に負けじと、俺にアピールしてきた。
「ああ、好きだよ」
「私はね……大好きっ♪」
照れながら言う彼女の姿がすごく可愛くて、胸がドキドキする。
しばらく見つめ合い、互いに吸い込まれるように顔が近づき、そのまま唇を重ねた。
俺の前で走り続ける理想の自分。
手を伸ばしても、届かない。
追いつこうと速度を上げるが、追いつけない。
それどころか、距離がどんどん離れていく。
「くそっ……!うわぁ!」
なにかに躓き、豪快に転ける。
理想の自分は俺を置いたまま走り続け、姿が見えなくなってしまった。
理想が高すぎたのだろうか?
いつかなれると思っていたけど、やっぱり……。
いや、まだやり直せるはずだ。
来た道を少し戻れば……。
立ち上がって、振り返ると、何もない真っ暗な闇で、道なんてなかった。
窓から太陽の光が射し込み、ポカポカしている昼休憩の廊下。
俺はトイレへ向かって歩いていると、どこからか甘い香りがした。
廊下の窓は開いてないから、外からではない。
教室で誰かがバームクーヘンを焼いて……いや、そんなことを学校でする奴はいないだろう。
じゃあ、一体どこから?
よく匂いを嗅ぐと、俺がトイレへ向かう方向から段々と甘い香りが近づいてくる。
……前から、女の子が歩いてきた。
流れるような黒い髪、顔が小さくて、可愛らしい女の子。
スカートをひらひらさせながら、こっちへ歩いてくる。
「こんにちは」
女の子は俺に挨拶してきた。
「あ、ああ。こんにちは」
近くで見ると可愛らしさが増して、思わず胸が高鳴る。
「ふふ……」
女の子は微笑みながら、俺の横を通過する。
甘い香りを纏った女の子を、目で追ってしまう。
女の子の後ろには、数人の男子達が続いていた。
まるで、甘い花の香りに誘われたミツバチのように。
俺もついていきそうになったが、トイレに行く途中だったことを思い出し、急いで向かった。
用を達した後、教室に戻り、さっきのことを友達に話すと、驚きの事実を聞かされる。
「その子は男だぞ」
「えっ」
「女装が趣味で、男共に見られるのが快感らしく、たまに女装して廊下を歩いているそうだ」
「マ、マジかよ」
「ああ、一部の生徒からは歩くスズランと呼ばれている」
「なんでスズランなんだ?」
「スズランは甘い香りがする可愛らしい花だが、毒があるからだ。彼にぴったりだろ?」
「そ、そうだな……」
俺ももう少しで、あの男子達のようになるところだった。
「これからは甘い香りがする女の子には気をつけないとな」
「いや、女じゃなくて男にな?」
でも、あの甘い香りを思い出すと、また会いたいなと思ってしまった。
疲れた身体を優しく支えてくれるベッド。
どうしてあんなメッセージを送ってしまったんだろう……。
友達に返信したメッセージが、今になって後悔の波が押し寄せてくる。
友達は真剣な悩みで私に相談してくれたのに、私は仕事でヘトヘトになっていてイライラしていたから、何も悪くない友達に強い言葉で怒りをぶつけてしまった。
それから、友達から返信はない。
あの時の私はまるで沸騰したお湯だったのに、今は冷めきった冷水だ。
……やっぱり、謝るべきだよね。
そして、もう一度きちんと相談にのって力になってあげよう。
スマホを手に取り、文字を打ち、メッセージを送ろうとしたら”ブロックされました”と表示された。
「……はぁ」
なんともいえない気分になり、スマホを放り投げ、天井を見る。
部屋を照らす照明が、あまりにも眩しすぎた。