たーくん。

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窓から太陽の光が射し込み、ポカポカしている昼休憩の廊下。
俺はトイレへ向かって歩いていると、どこからか甘い香りがした。
廊下の窓は開いてないから、外からではない。
教室で誰かがバームクーヘンを焼いて……いや、そんなことを学校でする奴はいないだろう。
じゃあ、一体どこから?
よく匂いを嗅ぐと、俺がトイレへ向かう方向から段々と甘い香りが近づいてくる。
……前から、女の子が歩いてきた。
流れるような黒い髪、顔が小さくて、可愛らしい女の子。
スカートをひらひらさせながら、こっちへ歩いてくる。
「こんにちは」
女の子は俺に挨拶してきた。
「あ、ああ。こんにちは」
近くで見ると可愛らしさが増して、思わず胸が高鳴る。
「ふふ……」
女の子は微笑みながら、俺の横を通過する。
甘い香りを纏った女の子を、目で追ってしまう。
女の子の後ろには、数人の男子達が続いていた。
まるで、甘い花の香りに誘われたミツバチのように。
俺もついていきそうになったが、トイレに行く途中だったことを思い出し、急いで向かった。
用を達した後、教室に戻り、さっきのことを友達に話すと、驚きの事実を聞かされる。
「その子は男だぞ」
「えっ」
「女装が趣味で、男共に見られるのが快感らしく、たまに女装して廊下を歩いているそうだ」
「マ、マジかよ」
「ああ、一部の生徒からは歩くスズランと呼ばれている」
「なんでスズランなんだ?」
「スズランは甘い香りがする可愛らしい花だが、毒があるからだ。彼にぴったりだろ?」
「そ、そうだな……」
俺ももう少しで、あの男子達のようになるところだった。
「これからは甘い香りがする女の子には気をつけないとな」
「いや、女じゃなくて男にな?」
でも、あの甘い香りを思い出すと、また会いたいなと思ってしまった。

3/16/2025, 12:51:25 PM