学校帰りに寄った近くの公園。
木々が芽吹き、春の準備をしている。
最近気温が一気に上がったから、すぐに開花するだろう。
散歩していると、木の下で男子学生が座って本を読んでいた。
あれは……同じクラスの竹上君だ。
胸が高鳴り、ドキドキする。
竹上君はいつも友達と一緒にいるけど、今は一人。
これは……話しかける絶好のチャンス。
だけど、ドキドキし過ぎて足が一歩も前に出ない。
心の中で「うぅー!」と唸っていると、後ろから暖かい風が吹いた。
「あっ……」
竹上君の読んでいた本のページが、ペラペラと捲れる。
「どこまで読んでたか分からなくなったぞ」
竹上君がこっちを向き、私と目が合う。
「あれ?君は……」
「あ、あのっ!竹上君っ!」
私の芽吹きが始まった瞬間だった。
私だけに向けられた大歓声。
キュートでラブリーなアイドルの私は、今日もキラキラ輝いてる♪
ある日、新しいアイドルがデビューし、大注目された。
私への歓声が減っていき、新しいアイドルへの歓声が大きくなっていく。
あんなのがどこがいいの?
私の方がとってもキュートなのに。
少し、お仕置きが必要ね。
じゃじゃーんっ!
リボンが付いたキュートアックス!
ザクッ!ザクッ!ザクッ!ザクッ!ザクッ!
あーあ、キュートアックスが真っ赤になっちゃった。
本当は顔だけにしようと思っていたけど、いつの間にか身体も切り刻んじゃったみたい♪
これでまた、歓声が私に向けられるねっ!
キュートでラブリーなアイドルの私は、今日もキラキラ輝いてるぅ♪
広場に置かれた大きい電子看板。
カウントが1010から998に減り、今日も記録更新。
遂に、残り1000を切った。
せっかく隠れ家を見つけたのに、12人しかいなかったとは……。
一体奴らはどこに隠れているんだ?
ゴキブリのようなしつこい奴らめ。
あと十日以内に絶滅させないと、地球を買い取ってもらえない。
「隊長!50人近く隠れている森を発見しました!」
「よし!燃やしに行くぞ!」
今日も我々は、人間狩りに出掛けた。
目の前に広がる広大な大陸。
長い船旅を終え、ついに冒険が始まる。
初めて見る光景、新たな出会い、苦難が俺達を待っているに違いない。
そう考えるだけで、冒険者魂がメラメラと燃えるぜ!
「さぁ!冒険だ!皆!」
足を踏み出した瞬間、仲間達に腕を掴まれた。
「その前に装備を整えて、町の周りでレベルを上げてから行きましょうね~」
「特にあんたはレベル低いし、装備がしょぼいからな」
「私達はレベル10だから大丈夫だけど……足手まといになりたいの?」
「……」
レベル1の俺は、何も言い返せなかった。
窓から夕陽が射し込む、放課後の誰もいない教室。
俺は自分の教室で、後輩と待ち合わせをしていた。
掛け時計を見ると、十六時過ぎ。
スマホを取り出し、メッセージを再確認する。
“放課後、教室で待ってて下さい“
わざわざ放課後を選ぶなんて、何の用だろうか?
メッセージでは言えないことなのかもしれない。
直接といっても、彼女は……。
ガラッ。
突然教室のドアが開き、思わずビクッとする。
入ってきたのは、後輩だった。
慌てて両手を後ろにして、何かを隠したみたいだけどなんだろう?
『待たせてしまってごめんなさい』
と、後輩は申し訳なさそうな顔をしている。
「全然待ってないから大丈夫だよ」
そう言うと、後輩は『ありがとう』と笑顔で答えた。
この後輩の女の子は、半年前ぐらいに廊下でいじめられていて、誰も助けようとしないから助けたらすごく感謝され、それから仲良くなって……って感じだ。
『どうしたんですか?』
と、後輩は首を傾げながら俺を見ている。
この子は、喋れないのだ。
何かの病気らしく、声が出せないらしい。
「いや、今日も可愛いなって」
『……!!』
後輩は頬を赤く染めて、目をキョロキョロさせている。
俺は後輩の表情や動きを見て、何を言おうとしているのか予想しながら会話している。
「で、俺に何か用かな?」
『これ……』
後輩は後ろに隠していた物を、前に出した。
両手で持っていたのは、ラッピングされた一本のピンクのバラ。
『い つ も あ り が と う』
後輩は口をゆっくり動かしながら、俺に言った。
「このバラを俺に?」
『うん』
と、後輩は頷く。
「そんな感謝されることしてないけど……あ、ありがと」
なんというか……照れくさい。
だって、俺のためにわざわざ花を買ってきてくれて……。
多分、彼女なりの感謝の気持ちなのだろう。
バラを受け取ると、後輩はバラに負けない満面の笑顔で笑っていた。