たーくん。

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窓から夕陽が射し込む、放課後の誰もいない教室。
俺は自分の教室で、後輩と待ち合わせをしていた。
掛け時計を見ると、十六時過ぎ。
スマホを取り出し、メッセージを再確認する。
“放課後、教室で待ってて下さい“
わざわざ放課後を選ぶなんて、何の用だろうか?
メッセージでは言えないことなのかもしれない。
直接といっても、彼女は……。
ガラッ。
突然教室のドアが開き、思わずビクッとする。
入ってきたのは、後輩だった。
慌てて両手を後ろにして、何かを隠したみたいだけどなんだろう?
『待たせてしまってごめんなさい』
と、後輩は申し訳なさそうな顔をしている。
「全然待ってないから大丈夫だよ」
そう言うと、後輩は『ありがとう』と笑顔で答えた。
この後輩の女の子は、半年前ぐらいに廊下でいじめられていて、誰も助けようとしないから助けたらすごく感謝され、それから仲良くなって……って感じだ。
『どうしたんですか?』
と、後輩は首を傾げながら俺を見ている。
この子は、喋れないのだ。
何かの病気らしく、声が出せないらしい。
「いや、今日も可愛いなって」
『……!!』
後輩は頬を赤く染めて、目をキョロキョロさせている。
俺は後輩の表情や動きを見て、何を言おうとしているのか予想しながら会話している。
「で、俺に何か用かな?」
『これ……』
後輩は後ろに隠していた物を、前に出した。
両手で持っていたのは、ラッピングされた一本のピンクのバラ。
『い つ も あ り が と う』
後輩は口をゆっくり動かしながら、俺に言った。
「このバラを俺に?」
『うん』
と、後輩は頷く。
「そんな感謝されることしてないけど……あ、ありがと」
なんというか……照れくさい。
だって、俺のためにわざわざ花を買ってきてくれて……。
多分、彼女なりの感謝の気持ちなのだろう。
バラを受け取ると、後輩はバラに負けない満面の笑顔で笑っていた。

2/24/2025, 1:42:46 PM