いいよな。
空は色んな国、色んな惑星、どこまでも繋がってるんだから。要するにどこに行くにも、何をするにも選択権が与えられてるんだから。
どこかに行く為の羽も足も腕も捥がれて、足枷と首輪をつけられた俺とは全くの正反対。
この世界中、宇宙、どこまでも行ってみたい。
でも無理だろう、いずれ空想すら周りは自分好みに作り変えるのだから。
本当の自分なんてなくなって、周りが望んだ偽物の人間が出来上がる。
周りが嬉々としてしいたレールの上を、決められた速度で、決められた角度で、決められた歩き方で、今日も歩いていく。
どこまでも続く地平線、水平線。
どこまでも続く空、宇宙。
どこまでも続く人形生活、自由なき人生。
私は、僕は、自分は、俺は、何者なんだろう。
どこまでも行けないこの人生で、答えは見つかるかな?
いや、無理か。
騒がしい赤い光が夜の大都会を走る
少し高い所から点く緑色の光を見て、赤い光は進む
それにさまざまな反応を示しながらも、みんな青い光を気にせず、液晶を見る
赤、青、緑の光が今を支配しているのかもしれない
なんて言えたら、白い光に飲まれなくて済んだのに
長い黒髪の美しい乙女、もとい私の憧れ
月が赤い液体を照らす事も、なかっただろうに
雨が嫌い
君を思い出すから
雨上がりのような君と過ごした、たった数分の思い出
バス停でたわいもない話をした思い出
雨音に遮られた一世一代の告白も、バスに乗った時の君の笑顔も忘れられないから
今も雨が嫌い
「久しぶり」なんて声が聞こえてきたから
私は雨音で聞こえないフリをした
君は察して、バス停のベンチに腰掛けた
相変わらず、トタンに雨が降って雨音がうるさい
こんな強い雨が続くなら、言ってもいいのかも
「好きだったよ」
何故か雨は、やんでいた
「僕も好き」
これだから、雨は嫌い
都合の悪い時に限って、素知らぬ顔でいなくなる
本当に、嫌い
これはある日の放課後
諸事情でオレンジ色に染まった廊下を歩いていると、一つの教室に目がいった。
机と椅子が綺麗に並んでいる、カーテンも風に吹かれている。おかしいところといえば、生徒と先生がよくある学園生活を描いている。
女子が固まっておしゃべりしたり、男子が早弁しながら何かを熱く語り合っている。読書したり、音ゲーをしたり、数えたらキリがない。
先生らしき人は、名簿を持って点呼をしようと教壇に立っている。
おかしい、こんな時間だぞ?
短いとはいえ演劇部の人間として、これらが演技ではない事もわかる。
(上手い人だったら見抜けないが)
学園祭も近くない。どこかの部活が今日ここを使うという申請も来てない。
それに誰もこちらに気づかない、何人かと目が合っているはずなのに?
そういや、このクラスは…
「どうしたのー?」
「いいえ、なんでも」
「いや、気になるよ!だって、空っぽの教室見てぼーっとしてるもん!あれ、もしかして疲れた?」
「そりゃ、学業と部活の両立は疲れますが…顧問には見えませんか?」
「何が?……ほら、行こう!誰もいない教室を見たって、ノスタルジアの錯覚で動けなくなるだけだよ?」
「そうですね」
そう言って、大荷物を持った顧問の後ろをついていく。
あの事件から数十年も経ってるのに、ちゃんと祓えてなかったの?
言えないよなぁ。
あのクラスであったデスゲームの主催者が目の前にいるなんて。
そう思いながら、部室として占拠している教室の鍵を開ける。
そこにあったのは、出る前に無かった閑散とした教室。
部員が誰一人いない、教室だった…。
ただ、声だけが聞こえる。
「ゴール!おめでとう!」
「え、誰もいませんけど?」
「何言ってるの、みんないるじゃん!」
「え、え?」
「長時間やりすぎて、外せなくなった?今、外してあげるね!」
突然、視界が暗くなり目を囲っていた何かが無くなる。
眩しさに目を慣れさせると、そこにいたのは見慣れた部員と顧問である。
そっか、私は顧問の作ったVRの実験をさせられてたんだった。じゃんけんで負けて、段々と記憶が鮮明になってきて落ち着きを戻した。
「凄かったです。映像は全て、作ったんですか?」
「そうだよ!使い所はなさそうだけどね!」
「良かったです。」
「お疲れ様!感想は?」
「リアリティが凄くて、一瞬現実かもって錯覚しちゃいました!あの教室の賑わいも、凄かったですね。自分だけしか見えない、まるで霊能力者になった気分です!」
「…何それ?教室内は特に設定してないんだけど?」
「え?」
「俺の時無かったぞ!」「私も、全部空室だった!」
色んな部員が口を揃えて言う、気づいた瞬間には私の身体は冷蔵庫の中のように急冷していた。
最近、推しが出来た。
通学路でよく見かける、あの子。
前からいたんだけど、時々見せるその健気な可愛さに見惚れた。
これは、家族にも友達にも言ってない。
だって、ダメだって言われてるし。
友達に言ったら、からかわれそう…
だから、誰にも明かさない。
そのドキドキを隠しながら、今日も会いにいく。
もちろん、変装をして。
ああ可愛すぎる!何そのピュアでウルウルした目、私を尊さで気絶させる気!?しかも何あの顔、その笑顔でこれまで何人の自分を殺してきた!?
「ままー、あの人へんなお顔してるけど大丈夫?」
「しっ、見ない!あんな人になってはいけません!」
おっと、いけないいけない。ついはしゃぎすぎた。
冷静に見よう。うん、やっぱ無理。
もうそろそろ、バイトの時間だ。
今はまだお迎え出来ないけど、お金が貯まったら…
その時は、一生懸命お世話するね!
ドーベルマンのミライちゃん!