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これはある日の放課後
諸事情でオレンジ色に染まった廊下を歩いていると、一つの教室に目がいった。
机と椅子が綺麗に並んでいる、カーテンも風に吹かれている。おかしいところといえば、生徒と先生がよくある学園生活を描いている。
女子が固まっておしゃべりしたり、男子が早弁しながら何かを熱く語り合っている。読書したり、音ゲーをしたり、数えたらキリがない。
先生らしき人は、名簿を持って点呼をしようと教壇に立っている。
おかしい、こんな時間だぞ?
短いとはいえ演劇部の人間として、これらが演技ではない事もわかる。
(上手い人だったら見抜けないが)
学園祭も近くない。どこかの部活が今日ここを使うという申請も来てない。
それに誰もこちらに気づかない、何人かと目が合っているはずなのに?

そういや、このクラスは…
「どうしたのー?」
「いいえ、なんでも」
「いや、気になるよ!だって、空っぽの教室見てぼーっとしてるもん!あれ、もしかして疲れた?」
「そりゃ、学業と部活の両立は疲れますが…顧問には見えませんか?」
「何が?……ほら、行こう!誰もいない教室を見たって、ノスタルジアの錯覚で動けなくなるだけだよ?」
「そうですね」
そう言って、大荷物を持った顧問の後ろをついていく。
あの事件から数十年も経ってるのに、ちゃんと祓えてなかったの?
言えないよなぁ。
あのクラスであったデスゲームの主催者が目の前にいるなんて。
そう思いながら、部室として占拠している教室の鍵を開ける。

そこにあったのは、出る前に無かった閑散とした教室。
部員が誰一人いない、教室だった…。
ただ、声だけが聞こえる。
「ゴール!おめでとう!」
「え、誰もいませんけど?」
「何言ってるの、みんないるじゃん!」
「え、え?」
「長時間やりすぎて、外せなくなった?今、外してあげるね!」
突然、視界が暗くなり目を囲っていた何かが無くなる。
眩しさに目を慣れさせると、そこにいたのは見慣れた部員と顧問である。
そっか、私は顧問の作ったVRの実験をさせられてたんだった。じゃんけんで負けて、段々と記憶が鮮明になってきて落ち着きを戻した。
「凄かったです。映像は全て、作ったんですか?」
「そうだよ!使い所はなさそうだけどね!」
「良かったです。」
「お疲れ様!感想は?」
「リアリティが凄くて、一瞬現実かもって錯覚しちゃいました!あの教室の賑わいも、凄かったですね。自分だけしか見えない、まるで霊能力者になった気分です!」
「…何それ?教室内は特に設定してないんだけど?」
「え?」
「俺の時無かったぞ!」「私も、全部空室だった!」
色んな部員が口を揃えて言う、気づいた瞬間には私の身体は冷蔵庫の中のように急冷していた。

9/6/2025, 2:55:53 PM