最近、推しが出来た。
通学路でよく見かける、あの子。
前からいたんだけど、公園から見たときに健気な可愛さに見惚れた。
これは、家族にも友達にも言ってない。
だって、ダメだって言われてるし。
友達に言ったら、からかわれそう…
だから、誰にも明かさない。
そのドキドキを隠しながら、今日も会いにいく。
もちろん、変装をして。
ああ可愛すぎる!何そのピュアでウルウルした目、私を尊さで気絶させる気!?しかも何あの顔、その笑顔でこれまで何人の自分を殺してきた!?
「ままー、あの人へんなお顔してるけど大丈夫?」
「しっ、見ない!あんな人になってはいけません!」
おっと、いけないいけない。ついはしゃぎすぎた。
冷静に見よう。うん、やっぱ無理。
もうそろそろ、バイトの時間だ。
今はまだお迎え出来ないけど、お金が貯まったら…
その時は、一生懸命お世話するね!
ドーベルマンのミライちゃん!
教科書をめくっていると、様々な事を思い出す。
必死に覚えようと、蛍光ペンで太字を引いたこと。
授業でちょっとしたハプニングが起こったこと。
友達に貸したら、返ってきたこと。
このしわしわの部分は、泣きじゃくった記憶がある。
理由は分からないけど、悲しかったのかも。
余白に落書きがしてある。
暇すぎて落書きしてたな、今はする暇すらない。
今でも思い出せる記憶がたくさんある。
懐かしいけど、もうお別れか。
売ってもお金にならないし、大量生産されているから遺物にもならない。
経済的に、文化的に、全然価値はない。
けど、ここにつまった思い出は私にとって価値がある。
さようならと思いながら、私は最後のページを閉じる。
紐で縛って、お別れだ。
ありがとう、そして、さようなら。
「私、レモン好きなんだよね。」
「分かる〜、檸檬いいよね〜。」
「あの酸っぱさがいいんだよね。」
「あの心理的な酸っぱさは魅力だと思う。」
「物理的じゃね?」
「素材は、年月立てば酸っぱくなるかも?」
「(皮の話か?)」
「おっ、盛り上がってるじゃん。何話してたん?」
「今二人でレモンの話してたの。」
「Lemon?結構話題だったけどねー。やっぱ名作は色褪せないか。」
「めいさく?(腐らない品種なんてあったか?)」
「分かる、言葉の使い方が神がかってるよね。」
「やっぱさすがとしか言いようがない、ストリーミングで毎秒聴いてる。」
「(最近の朗読の話かなぁ?)」
れもんはすれ違う。
カーテン、外と内の仕切りとなりし布。
時には光を和らげ、時に闇を感じさせない。
明るい景色を通さず、夜空を封印する。
くるまったり引っ張ったりした幼少期、毎日広げては閉じての繰り返しをした青年期、洗濯をするようになった成人期、動かせなくなった老齢期。
カーテンは、第四の壁を具体的にした幕をも指す。
そう、カーテンとは遮断や遮絶の象徴である。
僕は君の心のカーテンを開けられずに、見送った。
自身がこんな種族に生まれたばかりに、ああ、種族との縁をカーテンが仕切ってくれたらいいのに。
ーとある長命種の手記より引用
目の前に泣いている人のイラストがある。
その下には、何でこの人は泣いていると思う?と書いていって選択肢もある。
・悲しいから ・嬉しいから ・眠いから
理由も書けと書いてある。
めんどい、不思議なのはこれが出されたのが国語でも道徳でもなく社会な点である。
とりあえず白紙でだそう、点数にはならないから。