記憶の海
ある所に記憶を失った男が居ました。 その男は事故によって失った記憶の欠片を集める為、旅に出ることになりました。
男は生い茂るキャンディーの森から 濁流のように溢れる鉱石の川から エルフと言われる人達が住むエデンまで沢山の場所へ向かいました。
男はエルフに問いました。 「記憶の欠片を知りませんか?」 エルフは答えます 「この辺りには記憶の欠片はありません。もっと北にはあると思います」
男は北の歌姫と呼ばれる人魚の海へ向かいました。 そこには沢山のサンゴと美しい美女達が住まう人魚の住まう洞窟がありました。 しかし人魚の楽園は男人禁制でした。 追われるように人魚の国を出た男はそこから西に向かいました
険しい山を越えた先には小さき人が住むドワーフの国がありました。 ドワーフ達は男を歓迎し沢山のお酒を飲みました。沢山のお酒を飲んだ男は酔っ払ってしまい、ドワーフ達が大切にしている木の実を食べてしまいました。 怒ったドワーフ達は男を木の実の肥料にしようとしたのでまたまた追われるように国を出ていきました。
人魚の国も、ドワーフの国も追われてしまった男はさらに北へと向かいました。
男がたどり着いた場所は砂漠でした。 男が三日三晩さまよい続けたどり着いた所には小さなオアシスとスフィンクスが居ました。 男はスフィンクスに問いました。 「記憶の欠片を知りませんか?」 スフィンクスは言いました。 「ここからさらに北の地に落ちているだろう」と
男はスフィンクスに感謝を伝え北を目指しました。
しかし今まで使っていた方位磁針が砂漠の砂によって壊れてしまい、北が分からなくってしまいました。 男は当てもなく彷徨い小さいオアシスに作られた集落を見つけました。
男は尋ねます。 「北へと向かいたいのですが方位磁針が壊れてしまいました。北はどちらなんですか?」 集落の住人は武器を向け答えます。 「ここから右手だ、早く立ち去れ旅の者よ」 男は身の危険を感じそそくさと北へと向かい歩き出しました。
しばらく歩き続けると砂漠を抜け広大な草原に出ました。 様々な動物が住んでおり、ハーピィの少女が狩りをして居ました。 ハーピィの少女は男を見るなりハーピィの村へと案内しました。 男は尋ねます 「北はどちらですか?」 しかしハーピィの人々は男にご馳走を用意し応えようとしません。 男は結局ハーピィの村でたらふくご飯を食べ眠ってしまいました。
明け方不意に目が覚めた男はハーピィの伝説を思い出しました。
「人を食すとさらなる力を得らる」 そう、ハーピィは男を食べようとしていたのです。 男は急いで逃げ出しました。 太陽が少し出ていたので太陽を右手に必死にはしりました。 息も絶え絶えでついた頃には夜も更けていました。
男はその夜様々な事を思いました。 愉快な場所から、エルフ、人魚、ドワーフ、さらにはハーピィまで、以前では出会うことも無かった人達と出会い村に居るだけでは得られなかった経験をしたこと。 快いドワーフから、他種族を恐怖する人々達、様々な人が居ると思いました。
男がぼんやりと目を開けるとそこには、黄金に輝く海がありました。
海には魚だけでなく亀やイルカ、鯨まで居ました。
そっと海に近づくと一番大きな鯨が男に話しかけます。
「君は記憶の欠片を探しているんだね。」
男は頷きます。
「ここまで遠かっただろう。人間が住む所から沢山距離があるからね」
男は少し急かすように頷きます。
「君は本当に記憶を思い出したいかい?きっと嫌なことも沢山あるだろう?」
男はまだかまだかと鯨を急かしました
「私としては記憶は思い出さないほうがいいと思うよ?」 男は遠路はるばるやってきたのに、そう言って記憶の欠片を出さない鯨に怒って、殺してしまいました。
男は記憶の欠片を取り戻し、海を眺めました。
全てが無駄に思えてしまいました。
男は神にお願いして嫌なこと全て忘れさせて貰いました。 しかし男ははうっかりしていました。
記憶を消したと言う記憶も消してしまったのです。
だから男は嫌な記憶をわざわざ戻してしまったのでした。
男はとても長かった道のりを思い出しました。
海が黄金になるほど記憶の欠片が捨てられたこの世界に絶望してしまい、 男は記憶の欠片が溢れる黄金の海へ飛び込み死んでしまいましたとさ
ただ君だけ
手を伸ばしたって届かないものに心惹かれるのは、きっと人間の性なんだろう。
本、アニメ、芸能人、YouTuber、、、etc 小さい頃誰もが憧れるような話は何時だって現実離れしている そういった今の自分では得られない理想や妄想が人を動かす原動力なのかも知れない。
小さい頃だと姉や兄に憧れて真似をすることあもあるかも知れない。 もしくは好きな戦隊モノのキャラや、アイドルがかっこよく見えて真似をするかも知れない。 そういった理想の積み重ねで大人になる一歩を踏み出しやすくするのかもしれない。
自分には双子の兄がいた。 自分と比べて優秀で勉強も運動も、人当たりだって良くて、どれも平均かそれ以下の自分は惨めだった。 親はやっぱりと言うか優秀な子供の方が可愛いみたい。やっぱり与えられた違いは大きくて、兄への劣等感と憎しみが募っていった。
それでも兄は兄だった。出来損ないの自分にも明るく笑いかけてつい浮きがちな自分を周囲の人達と馴染ませていった。 でも、勿論それは兄がいるから、兄がいなきゃ誰も相手にしてくれない。精々出来損ないの自分を哀れむだけだ。
そんなこんなな日々を過ごしたある日、僕と兄2人で買い物に行ったんだ。 普段は穏やかな道は何処か騒がしくて、不思議に思いながらも2人でスーパーへ向かう。 なんてことない日曜日だったんだ。 暴走車が僕達へと向かって来て「たまたま」車道側を歩いていた兄が死んでしまった。
聞きたくなかったよ。分かっていたんだ。それでもどうしょうもなくて、
「死んだのがお前だったら良かったに」
そう言われてしまった。 分かってる。兄が死んでしまって乱心してるのも、自分の方が命の価値が低いのも。
分かってるけど………それでも、、 辛かった
生前兄とは散々一緒にいたから出来たんだ すっと自分に馴染むように 簡単に
それから今の今までずッと君の真似をしているんだ。お兄ちゃん。
ただ君だけ、ただ君だけ僕を愛してくれたよね。
ただ君だけ愛されていたよね。
お兄ちゃん だからね、いいよね?、
成り代わったって
届かない…
あとちょっと、、
もうちょっと、
そう手を伸ばした時、手を引かれる。
後ろへ
いつも自分には邪魔が入る。
何故自分が一番になってはいけないのだろうか
何故自分はいつも支援学級の子の世話をしなければいけないのだろうか。
いくら手を挙げても当てられない挙手
いくら賞を取ったって飾られない賞状
いくら真面目にやったって壊されるグループワーク
親も先生もトモダチも、大っ嫌いだ!
そんな事言ったって飽きられて終わる小学生。
トモダチも大人も話が通じない。
酷い話だ、2歩3歩先を歩くと、3歩4歩と後ろへ戻される。
アホらしい。
確かに取り繕う方が楽だ、川の水のように流れるだろう。
じゃあ、俺が、水を増やして、大きな石を置いて制御の効かない濁流にしてやろう。
2歩3歩先を歩かしてくれないなら、手が届くまで勝手に歩いてやる。
そうすれば、
そうすればきっと、
俺がもっと凄いと分かってこっちを見てくれるだろうか?
木漏れ日
吸い込まれそうなほど青く輝いている湖
陸には花が咲き乱れ、辺りに生い茂る木々は生命力溢れている。
雲1つ無い快晴でなんだか気分が良い。
つい柔らかい草地へ腰を落としてうつける。
こんな事をしているのは何時ぶりだろうか、最近はバイトに勉強、友達とゲームしたり遊びに行く。
ずっと慌ただしくって疲れていたのかもしれない。
慌ただしいのも楽しいが、小さい頃何でもないことで楽しかった。
いろんなモノを見て触ってそれだけで心満たされた僕は何処へ消えていったのだろう。
少し寂しいがそれが成長だし、知ら無いことを考えない程知ったということなのだろう。
物思いにふけつつ木漏れ日がキラキラと光を刺すこの場所を眺める。本当にここは桃源郷みたいだ。
知らない場所で帰り方も分からないのに何だか帰らなくても良い気がした。
そうやってポヤポヤしていると、葉と葉の隙間からニュッと手が伸びてきた。
気になって手を掴むと引っ張られ湖へ落ちる。
濡れたなぁと思うもぼんやりと見えた手の主は何処かで会った気がした。
「んはっ!」
目が覚めると家とは違う天井。桃源郷から帰ってきてしまった事を悟り少し名残惜しいが、これはきっとそういう事なのだろう。ナースコールを見つけ押してみる。
やっぱりここは病院無のだろう。
バタバタと看護師さんが動いているのがわかる。
覚醒してきた頭は病院の前を思い出す。
飛び出したボール、ソレを往復子供、つい手を伸ばしてしまった後記憶はない。
桃源郷で見た光景は夢かも知れないし幻覚かも知れない。
それでも僕の手を引いてここへ返してくれたのはきっと同じように事故で亡くなった小さな兄だった。
青い青い
「お母さんなんてもう知らない!!」
そう言って走り出してどれだけ来ただろうか。
最初はほんの些細な事だった気がするがもう覚えてない
辺りは薄明頃でもうすぐ夜だとつげている。
ただ明かりを求めてとぼどぼと彷徨う。手にはスマホと財布のみ。
つい、小腹が空いてしまいコンビニに入り物色する。
スマホの通知は煩くなっており、非通知に変えてしまった。
普段では買うことの無いお菓子やジュースを手に持って最寄り駅へと向かう。
何処か遠くへ行きたかったんだ。
そう、遠くに口煩い母親の影なんて無い遠くへ。
『ガタン ゴトン ガタン ゴトン』
ゆっくり進む電車に乗って、目的もなく旅をする。
小さい頃の憧れだった。
最近は勉強、勉強、勉強ばっかり、友達と遊びたいし、メイクだってしたい。
ジャンクフードも食べてみたいし、アイドルのライブにだって行きたい。
そんな事を考えながら移りゆく景色を眺める。
薄明から、日が落ち夜になる
お母さん心配してるだろうな。不意にそう後悔してしまう
今は絶賛反抗の旅だ、そう思いつつも1枚写真を送る
どれだけ電車に揺られただろうか。
何度か乗り換えして、終点まで来てしまった。
朝の5時、日の出の時間だ。
ふわっと塩の匂いがする。
気の無くまま歩く。
ふ日の光に誘われ顔をあげるとそこには、今の自分と似ても似つかない
青い青いたおやかな海があった。