またいつか
何があったかは分からない。
ある日突然姿をくらましたあいつとは二度と会えない気がした。
夏休み、なんだか無性に落ち着かなくて、変に鮮やかな青空が気持ち悪かった。
ソワソワして、どうせ課題が滞ってるあいつを手伝いに家へ行くと誰もいなかった。
普段あいつが居なくたっておばちゃんや、弟、お婆ちゃん誰かは居るはずだ。
いつもと違う世界が少し居心地悪かった。
仕方なしに、あいつが居そうな商店街、浜辺、神社色々回ってみた。
騒がしいあいつが居なくて静かで、色褪せた気がした。
結局あいつに会うこともなく帰り道、夕日に反射して綺麗なオレンジ色をした海になんとなく呼ばれた気がして浜辺を歩く。
いつもと変わらないはずなのになんだかやけに落ち着かない。
フラフラと歩いてるとあいつが好きそうな貝殻を見つけた。光に反射してダイヤモンドのようで、貝殻なんて拾う趣味はないけどつい持って帰ってしまった。
その後しばらくして、おばちゃんが訪ねてきた。
あいつが行方不明だと。あのやけに鮮やかな空の日、こつ然と姿を消したらしい。
近所の人の話では商店街、浜辺、神社、いろんなとこで目撃情報はあるけどこつ然と夕方姿を消したらしい。
まさかと、思った。信じたくなかった。
それでもいないものはいない、愛嬌のあるあいつはきっと波にでもさらわれたんだ。
「……その貝殻………どこで………」
もうこの世に居ないかもしれない怖さを味わっているとおばちゃんに聞かれた。あの貝殻は余りに綺麗だったから玄関に飾る事にしたからだ。
「あいつがいなくなったあの日海岸で」
そう伝えるとおばちゃんは突然目から涙がこぼれだした。
なぜ泣いたのか、この貝殻と関係あるのか、なんて声をかけたら良いか分からずあたふたしているとおばちゃんは話しだした。
「この貝殻、あの子が昔海べで拾った貝殻なんよ。間違うことはあらへん。こんなに綺麗なんから。」
……あの日海岸でなぜ俺がこれをひろったのか、なぜ海岸に落ちていたのか、分からない。
あれからもあいつは姿を見せない。警察ももうまともに調査していない。
きっとあの日、あの時、あいつと同じとこを歩いて、あいつの貝殻を拾ったことは運命だ。
あいつに、「またいつか」そう託された気がした。
今を生きる
走って走って走って
たまに止まって、走って走って走って
こける。
立ち上がって走って走って走って走り続けて、
息が上がって動けなくなる。
心臓が煩いくらいに動くのに足を動かすことが出来なくて
歩きたくたって足が言う事を聞かなくて座り込む
少し休憩をしよう
そう思って待ったっていつもみたいに立ち上がれない。
力が入らない足はもう使えない
せめて少し、少しでも、そう思って手の先を手繰り寄せる
足が動かないならせめて腕で、地面を手繰り寄せて、皆の何倍も時間をかけて進む。
そうすると腕も動かなくなった。
皆に声を掛けるしかなくて、皆の動きを止めるのが申し訳ない。それでも自分に出来ることは限られる。
それでも無情に時は進む。
揺れる木陰
ざあざあと風が吹き木々が揺れる音がする。
それにならって無音で木陰も揺れる。
以前来た時生えていなかったこの木も風によって揺らされる。
決して変わらないものなどはなくて、あの巨木だって切られてしまった。
それでも木たちはざあざあと揺れ動く。
一刻一刻と木陰の形は変化していく。
決して同じにはならない木陰。
音を出すことも、己で動くことも出来ない木陰。
しょせん木の飾り。それでも今も揺れている。
冒険
今日は冒険にでまつ!
近所のなーちゃんが秘密基地に連れてってくれるから遊びに行きたいと思います!
「おかあちゃん、なーちゃんの秘密基地に行てくる!秘密基地は秘密だから内緒なんだよ!」
じゃっいってくます!
お母ちゃんは気おつけるのよーとげぎげいをくれた!
なーちゃん゙家まではおうちから出て右に行ったらあります!おうちを4つ超えて5個目にでてきます!
歩いてなーちゃん家に行ってると3個目のおうちの前でなーちゃんと会いました!
迎えに来てくれたみたいです!
なーちゃんと歩いて家に行くます!
一緒に行くとさらに楽しくて、なーちゃん家まで近道をしたます!
田んぼの草道歩いていって、おうちとおうちの間を通ったらいつもより早くついた気がするます!
なーちゃんのお家についたら裏山?の木と木の間になーちゃんが作った秘密基地があった!
秘密基地はなーちゃんがお父さんに言ってダンポール貰ってこっそり作ったみたいです!
初めて家にお呼ばれしました!
秘密基地はなーちゃんのお父さんとお母さんと、お父ちゃんとお母ちゃんには秘密ます!秘密基地だから!!
秘密基地でなーちゃんと持ってきたクッキーを食べたお母ちゃんが居ないから沢山食べても怒られない!!
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いつの日かを思い出す。
なーちゃん…なつきの裏山というより庭の木の下で小さい頃ヨレヨレのダンボールで一緒に遊んだな。
当然だけどうちの両親にもなつきの両親にもバレてた。木なんて一本しか生えてないのに隠れてた気になってた。なつきの家だって徒歩5分もかからないのに1人で歩いてくのに不安になってたな……
確かにあの頃の自分には大きな冒険で大きな秘密基地だった。
願い事
僕は産まれたときから何か欠けていたのだと思う。いわゆる障害。昔は良く精神科に通っていた
そんな僕を親は気味悪がっていたけど病院へ連れて行った事を見るにいい親なんだと思う。
僕の何が欠けているかと言うと感情。
悲しい事、嬉しいこと何一つ感じれない。
分からないんだ。そういう事実ってだけ。
何をされてもどうも思わなくて3歳頃コケた時に涙を流さない僕を見てお母さんは急いで病院に行ったらしい。
僕はそんなこんなで感情鈍麻という病気になった。
原因は不明。体等に異常はなし、感情がないだけ
僕としては構わないけど他人から見るそれはとても不幸な事らしい。こういうときいっしょに俯いて涙を流したら良いんだろうけど、僕に涙は流れないから。
お母さんは最初この病気がストレスによって起こるものだと聞いて出来るだけ甘やかしてきた。とくに改善はなくて、しばらく何か悩んでた。
その後に本を読ませるようになった。読めと言われたから読んだ。童謡などの心温まるようなお話しを与えられた。
僕は人がプレゼントをもらうとうれしいと知った。
僕は人が勝負で勝つとうれしいと知った。
僕は人が怪我をすると悲しいと知った。
僕は人が人から危害を加えられると悲しいと知った
僕は人が守ってもらうと憧れると知った。
僕は人が感情が思いのほか沢山あると知った。
お母さんが僕に本を読ませたのは正解でそれ相応の振る舞い方を身に着けた。最初は間違えていたんだと思う。先生に怒られたり、友達が悲しい顔をしたりしてたから。
でも小学校中学校と上がっていってだんだん不自然じゃなくなった。便利だなと思った。
友達と遊びに行って占いにノリで入る事になった。他の友達は占い師に当たったと喜んでいたけど占い師ら僕の時だけ困った顔で何もでてこない。といいお祓いにいくよう進められた。友達は大盛り上がりだった。まあ気まずい空気になるより良いだろう。
そんなこんなで就活だ。勉強はそこそこできたので、そこそこの給料の会社へしばらく働いたら倒産した。困ったな、しばらくは良いとしてお金がなくなったら死んでしまう。そうするときっとお母さんは悲しむだろう、流石に育てて貰ったからそれくらいは避けたほうが良いのだろう。
とりあえずバイトを始めた。
バイトをして何とか暮らしてたが流石に会社へ所属したほうがやることが少なくて楽だ。ので、フラフラと散歩に出かけた。特に用事はないがすることもないし家に居ても何にもならない。何か縁があっても動かなければ何にもならないから歩く。たまに良いことはある。
そんなこんなでフラフラしてると神社についた
神主さんがこちらをすごい形相で睨んでいる。
どうしたのかと思い話しかけてみたところどうやら魂の形が欠けているらしい。
笑ったね。魂まで欠けているとは。それじゃあ仕方ないか。挨拶して帰ろうとしたら神主さんがまた凄い形相になって止められた。
こういうとき人間は焦るらしい。
そうしてとりあえず神主さんとお話しすることになった。神主さんが見ている世界は綺麗なんだと思う。春先に飛ぶ小鳥に求愛をするとり、それ狙って飛び出す猫。1つとってもこの人は綺麗に映るのだと思った。
他にも大きな岩が壮観だったり、果てしない海の果てには陸があるロマンだったりを話してくれた
僕が欠けているから何かするのかと思ったけど話し相手が欲しかったのかな?
そんなこんなで帰宅した。
それから僕の散歩コースに神社前が追加された。
神主さんのお話しは参考になった。感動を言葉巧みに伝えてくれたおかげでさらに僕の表現に磨きがかかったのではと思う。
そうやって散歩したりバイトしたり就職活動したりしてたらお父さんが病気になった。
脳梗塞だと。僕も大人になってしばらくたった。この調子だと孫は見せてあげれないけど仕方ないか。
まあつまり、もういい年だ。いつ死んでもおかしくない。僕を非情だと思うか?当たり前だ非情だ。
きっとよくないのだろう。人は家族を友を喪うととても悲しむから。悲しいフリはした。でもきっとお父さんにはバレている。昔の僕を知ってるから。
やはり必要なのか?感情は。
悩んだって仕方ないから神主さんに聞いてみた。僕が信用する一番感情豊かな人だから。
神主さんは神妙な顔をして祈ってみるか?と聞いてきた。心が籠もってなくてもと言うと笑って良いと頷いてくれた。
神様、僕の願いをどうか、どうか、
何を捧げましょう
お金?
食物?
土地?
人間?
それとも全部?
何でも捧げますから、どうか願いを……
僕に、願いをください………
なんでも良いんです。
たとえこの身が地獄に堕ちるような事でも、なんでも
だからどうか、人間としての、欲を、感情を…
お願いだからこの身に苦しみを、教えて、、
そんな事を言ったって空っぽな言葉では意味なかったのかな?
神主さんを見て、どう?上手だった?
そう笑った