「あなた自分のことばっかりじゃない。だいたいね、不幸な人の背比べなんて私見てられないわ。私がいちばん不幸です。みんながそう言って何になるの?あなたはずっと何かを待ってるだけ。それってなんて言うか知ってる?」そういうと機械から加熱タバコの種を抜いて咥えながら話す。
「無能。バカ。間抜け。ドアホ。能無し。未熟。人形。そう人形そのもの。あなた待ちぼうけ人形みたいだわ」少量のヨダレとともに吸殻を吐き出した。放物線を描いて飛んだ吸殻はゴミ箱の縁にあたって床に転がる。彼女は小さな手で小さな顔を覆い溜め息をついた。数秒の沈黙の後出てってと呟いた。アパートを出ると光の粒が集まった人口ライトツリーが道を彩る。腕を組み合った男女2人組が白い息を吐きながら笑い合っている。通り過ぎた男の方からデパートの香水の匂い。人肌恋しいこの時期は空気が澄んで光がよく目立つ。
喫茶店やカフェに入ると、彼女は必ずと言っていいほど紅茶を選んだ。1度疑問に思い、尋ねてみたことがあった。
「いつも紅茶を飲むよね。」
カタッと音をならして彼女はティーカップを置いた。薄いのみ口に西洋の模様。ベースは白色だけど取っ手だけは金縁。触れたら壊れてしまいそうだけれど、どこか主張が強いカップは彼女によく似ていた。
「コーヒーが嫌いな訳じゃないのよ」
「じゃあなんで飲まないの」彼女はこちらを見る。
「コーヒーは美味しいところと、マズイところの差が酷いから。でも紅茶で美味しくないところは中々稀じゃない」
そう言うと彼女視線は手元に戻り、浮いた輪切りのレモンを見つめていた。確かにここのコーヒーはミルクを入れないと飲めたもんじゃない。
空気がより透明度をました日に小さな山に登った。
稜線は緩やかに伸び、目をこらすと小さな樹葉が塊になって私に緑を認識させていた。
道とも呼びがたい先人の足跡に目線を戻した時、自然と彼が目に入る。寡黙な彼は少し見上げた位置を歩いていて、彼のシャツは汗ばんだ体にぴたりと密着し、もう吸収することが出来ないと嘆いているようだった。もう少し。あともう少しでインスタントラーメンが食べられると思うと、涎が滲み出てきた。
攫われた。とういうより飲まれた。いや消えた。
気に入っていた海の水平線は奥にも、横にも果てがなく永遠に続いているようだった。僕の親友が水難事故に遭い亡くなってからも、海は何事もないように無機質にそして飄々と波を打ち、寄せては引いてを繰り返していた。その細かい淡々とした現象に隠れながら月に引っ張られては戻されを繰り返される被害者でもあった。そんな特殊で可哀想な自然を僕はどうしても嫌いにはなれなかった。
万人受けする明るくて愛嬌がある人より、不器用だけれども素直で悩んでる人のほうが僕はcuteだと思う