【#13. 波音に耳を澄ませて】
「海だ〜!」
そう叫んで一目散に駆け出して行った
あなたの背を私はうしろから追いかけた
走り疲れた私たちは
目の前に広がる揺れ動く
茜色と紺色が混じった風景をお互い静かに見ていた
「この海みたいになれたらなぁ」
とあなたは呟く
この時間だけ今までの人生を
白紙にすることができていた
一定の音をたてて
揺れて砂を撫でる波と
綺麗なグラデーションのパレットの空は
どこまでも続いていて
どんな私でも受け入れてくれる気がして
すべてを白紙にして忘れて、忘れさせて
あなただけを思いながら
来世は白い波になりたいと思った
【#12. 青い風】
新生活が始まって
インスタを開けば
新しい顔ぶれと写真を撮る中学校時代の人達
私はそれに背を向けて
その眩しすぎる光と風に押し負けて
走っても自転車で漕いでもたどり着けなくて
早く風になりたいと思った
【#11 雨の香り、涙の跡】
雨に打たれたい
そうしたら鎧を脱いでいても
外を歩けるから
面を取っていても誰も流れた雨に気づかないから
学校に行く
別に楽しくないってわけじゃない
でも楽しいってはっきり言えるほどの価値がない
家に帰ってそうやって悶々と考える
中学校の時みたいに上手くいかない
中学校の時ははっきりと楽しいと言えてた
そう考えてしまっている私が嫌いで
一つ、雨を降らせた
学校では自分を造って
固めて
鎧を着て面を被ってる
それは肩がこるから
家に帰って鎧を脱ぐ
そして鏡を見る
なんて惨めな顔なんだろう
鏡には気に入らない私が映る
どうしてだろう
家を出る前までは良かったはずなのに
そんな考えしか出来ない私が嫌いで
二つ、雨を降らせた
今日も私は
溢れる雨の香りを感じとって
傘を差し出して
笑いかけてくれる太陽を探している
【#10. 糸】
私から見たら
信じていた友達も
私の好きな彼にも
ボロボロてほつれそうだけど
繋ぎ止めている嫌いなあいつにも
糸は繋がっているのに
私がどんなに修復しても、新しい糸にかえても、
ボロボロになって
あなたは私との糸をあなたからチョキンと
断ち切ってきまうのね
あーあ
とても残念だ
そうして私は新しい糸を探す
【#09. 届かないのに】
あなたを想うことはやめたはずなのに
まるでひらひらと舞う蝶を見たかのように
気がついたら目で追ってしまう
あなたには私と違うものをたくさんもった
あの人がいるのに
あのとき
なんでもない日のあなたとの会話で
告げられた一言
あなたは得意げにそして嬉しそうに
あの人は俺の彼女だと教えてくれた
その瞬間、暑い世界がいつもより
モワッと、1層暑く、まどろしい暑さになって
周りの音が消えた
「いいですね!お幸せに!」
なんて言えたら良かったのに
私はぎこちない
「あ、、そうなんですね。いいですね」
しか返せなくて
自分のことをなんて惨めな生き物なのだろうか
と悟った
あなたの彼女を嫉妬できる人であれば良かったのに
あなたの彼女は私の知り合いの先輩で
いわゆる同い年カップル
私とあなたとでは1つ学年が違う
そのことをまず恨んだ
そしてあなたの彼女は
私の知り合いの先輩であったことに
恨みきれず、妬みきれずにいた
私の中てぐるぐると渦をまくように
あなたを純粋に好いてた自分を
なんて馬鹿なんだろうと思う気持ちがさまよう
それでも私はなんで
グラスに入った氷が溶けていくように
この思いを溶けさせないのだろう
今日も明日も私はグラスに入った氷を溶かさずに
冷凍庫に入れ、保存して外に出させないようにしている
もう届かないって分かっているはずなのに