お題《君と飛び立つ》
「俺だけが世界じゃないよ。もうわかってるんでしょ? 君はそんなこと望んでないかもしれないけど、俺は一番ちかくにいたからわかるんだ」
物置小屋にさす月あかり
夜色のマントを白銀に照らす
あの日、世界が変わった
少年は語る
青い夏の夏祭り
空を泳ぐ金魚のこと
花弁のように散るわたあめのこと
しかけ絵本のこと
歌う花のこと
空白だった病室は色づく
少年は魔法使い
灯花 狐のお面 水風船 りんごあめ 風車
少女のためだけの、夏祭り
少年のためだけの、時間
二年目の春
窓から向こう側の季節を知る
少女は春を美しいと、想ったことがない
ひらひら ひらひら ひらひら
夢のような風景も殺風景にしか映らない
少年は夜の淡いに現れる
花弁を持って
「春を届けにきたんだ。春はキライ?」
「……どうして?」
「顔見ればわかるよ。俺はそんな君の顔をずっとずっと見てきたんだから」
――ぜんぶしってる 君が朽ちてしまいたいことも
ぜんぶ俺のエゴだってことも
それでも君を――――
真夏の夜 夜空を飾る星のランプ 窓辺の少年
深淵へと足を踏み入れようとした、刹那
「やあ。俺は陽炎(かげろう)。よろしくね杏花音(あかね)」
始まりは夏
「どんな夢もいつか覚めてしまう。それでも俺は願ったんだ、3年間だけ、時間がほしいって」
3年目の夏の果て、夢は終わる
お題《きっと忘れない》
幾千幾億の物語
出会い 別れ やがてまた出会う
何度忘れても
何度も記録する
砂時計をもう一度逆さまにして
幾千幾億の物語
もう一度紡いで
花の器は儚いから
すぐこぼれ落ちてしまう
不変の器は永遠だけど
永遠じゃない
人と怪異は解け合うことは、永遠にない
それでも願う
「オレたちは叶わない夢をみている。叶わないと知ってても惹かれてしまうのは――たちの悪い呪いだね」
永遠にないとしっているけど
それでも祈る
「私たちは同じだよ。命じゃなくて、形じゃなくて、《想い》が一緒なの」
永遠に叶わないとしっている
それでもいい
あなたと同じ世界を夢見ていられるのなら
お題《なぜ泣くの?と聞かれたから》
一個もいいことなんて一つもない
運命なんて抗うものじゃない
無意味に自分殺しては
いい理由《わけ》探して
もう、終わりにしよう
ただ咲いて、枯れてゆくだけの花になりたかった
ただ読んで、綴るだけの言葉織になりたかった
ただ笑って、ただ泣いて、弱音を吐ける人になりたかった
一個もいいことなんてない一つもない
運命なんて抗うものじゃない
虚像の自分で遊んでは
透明の壁で遠ざけて
もう、終わりにしよう
ありのまま生きて
ありのまま命燃して
ありのまま真実で
そんなことすらできない世界なんて
わたしはいらない
誰かの都合のいい世界の
自分なんていらない
運命なんて抗うものじゃない
お題《足音》
春の足音がした
春の匂いがした
春のうたが聞こえた
向かう先は君
向かう先はゲーム《幻想》
日常で奏でる雑踏は終焉の音
逃げても 逃げても 逃げても
その先に春はない
その先に君はいない
それでも信じた それでも賭けた
ゲーム《幻想》で真実として生きる、と
生きるのは悪夢で
死ぬのは救われない
ならば、
ここ《ゲーム》で賭けてもいい
命は残酷で 醜悪で 憐れ
春告げ鳥がうたう
春の足音がした
春の匂いがした
春のうたが、聞こえた
お題《真夏の記憶》
杜の奥 鳥居の向こう
濡羽色の闇の向こう側に
夜明けを夢見てた
逃げ水のように
追えば追うほど遠ざかる
追えば追うほど霞がかる
鳥居の向こうでしかあなたに会えない
会いたい時にあなたは会えない
それでも胸を焦がす涼やかな熱
待ちぼうけでもいい
それでもあなたがいい
「おれは鏡の向こう側でしか存在できない。おれは、ヒトを捨てたから。だからカミサマの怒りを買った、でも後悔はないよ」
「……想いを口にすることだけはできないんだ。ごめんね」
あなたはヒトじゃない
それでもいい
淡い希望でもいい
不条理なこの現実で
あなただけは信じられた
真夏に出会った
幻想と現実の狭間の境で