お題《記憶》
凪いだ水鏡にひと雫波紋が物語を捲る
枯れ果てた冬から泡沫の春に紡がれ
神代から現代へ贈る記憶のおとぎばなし
「氷雨様は唯一無二の神代の歯車のお方なのだから。あなたもそろそろ、わきまえなさいな」
氷雨と同じ街で育って 同じ風景を見て
一緒になろうと花白の誓いをしてくれた
でもそんなものは簡単に破り捨てられてしまう
この世界でも
ああそうやって繰り返すんだ咎の歴史を
「氷雨様」って呼ばれるあなたは私の知らない人に見えた
詩で賛えられ 従者を連れ歩く
もう私を“白椿”とは呼んでくれない
この物語はこれが正しいのだろうか
この物語の中で
――私とあなただけが幸せになれないなんて
なんて馬鹿馬鹿しいおとぎばなしだろう
《途中書き》
お題《もう二度と》
神様が始まりに創った世界は花のように散った
神様はたいそうお嘆きになった
神様が望んだ物語のようにはならなかった
それは悲劇か希望の始まりか
神様は最後にもう一度世界を創った
“永遠の鳥籠”を
永遠に廻り続ける世界
死を遠ざけ永遠に終焉など訪れない世界を
花のように散らない世界を
時は流れ
運命は再び巡り始める
異能《終夜》を持ったマレビトの少年と
神様の想いを受け継いだ少女は
長い長い時を得て出会う
でもそれは世界を揺るがす物語の始まりだった
お題《曇り》
一度も晴れたことがない
《灰霧の町》
灰の雨が降り
年中分厚い書物のような曇が町を覆う
「たとえここが、世界のサイハテでも生きていかなきゃならねぇんで。旅人になる気もありゃしませんねぇ」
高木のように背の高い青年が癖のある喋り方で語る
青年はこの町の《霧の案内人》
なんでも識っているが
問いかけには答えない
その癖、自分の問いかけに答えない者は客とみなさない
いつも変わった異国の服を纏い
神出鬼没に現れては相手を奇妙な世界へ誘い込む
“価値あるものはすべて自分が決める”
それは青年が“お金”に価値がないといえば
何の価値もないということだ
価値はその者によって変わる
その者の世界を游ぐなら
その者の価値となるか去るか、だ
《途中書き》
お題《手を繋いで》
鳥の翼を持った流れる星の瞳に導かれ
僕は異世界転生した
彼女の記憶の中の世界へ
彼女は彼女では探し出せない
抜け落ちた記憶を僕に託して
《途中書き》
お題《叶わぬ夢》
忘れられた玉座に蔦が這う
色褪せた王のいない城
幻想の人影が揺れ動く
王を探して
もう二度とここには戻らぬ主の帰りを待つ
――いつまで待つのだろうか
王は終焉の地でとうに果てたというのに
死んだら夢も何もない
残るものなどありはしない
屍となって砂塵となるだけだ
――そうか。それが“幸せ”か
オレと“あいつ”のように
心の奥底に鍵をかけた
いい記憶だって
見方を変えれば悪夢でしかない
――王よ。あなたは何を望む?
叶わぬ夢でも――
記憶の中の王に語りかける
「――――」
…………そうか
最初からすべてわかっていた
――あなたは生まれながらの“王”だな
《途中書き》