お題《記録》
人は忘れてしまう生き物だから
だから物語を綴り
歌にして記憶を語り継ぐ
いつかの遠い未来で
あなたへと託すために
翡翠の蔦に護られるように
森の海に深く眠るアンティーク図書館
想いを編んだ言の葉に触れ
誰かの物語を知る
英雄の物語
魔法使いの物語
失われた世界の物語
幸せも不幸もぜんぶたからもの
心の中に星が瞬いて夜を照らす
砂漠の海を越えて
それぞれの心に届けられる物語と歌がある
それは“あなた”へと託された
誰かのたからもの
お題《一輪の花》
永遠に咲き続けることができたのならば
あなた様の心に泉をもたらすことができたのでしょうか
枯れゆく運命を変えることはできない
あなたは黎明の不死鳥で
わたしは泡沫の花
「恋をすればお前は――もう花にもなれない。もう、お前はお前でいられない」
魔女の青年が告げたのは残酷な真実
それでもかまわないわ
だってわたしは…………
「オレにとっての花はおまえだけだ」
ブルーモーメントの空を映したようなひとりきりの花は
黄昏の狭間
焼き果てた森の残骸で
黎明のあなたに拾われた
お題《魔法》
「“祈り”は一番簡単な魔法だよ。――深い意味ではちがうけど。まあ君にはどうでもいいことか」
祈りは魔法。
ただしそれは現代では通じる魔法じゃない。
夜明けより遠い遥か彼方の時代だ。
夜が支配していた頃の。
――そして。
私には魔法が使えない。
現代では珍しい、希少種として扱われている。
「ああ見て。夜よ。あの忌まわしき夜の……」
「ああ……呪いの子か」
夜は現代では嫌われている。
遠ざけられた夜。
《途中書き》
お題《君と見た虹》
これは時の霧がみせる記憶
記憶の神隠しに遭った者が失くしたもの
あるいは――手離した、あったはずの記憶
朧気に存在する霧の森
陽を拒み
夜の底に沈んだ幻
森の奥から聴こえるのは
物語を綴る音
物語を詠む音
記憶の音
ただそれだけが、永遠に流れてゆく
遠いどこかの国の童話に描かれた
美しい虹のはし
おれは識っている
でもそれはおれじゃない、おれの、
錆びた記憶の物語
「――虹の色は感情で彩っているの。今私たちは幸せだから――だね」
――虹の色がみえない
記憶が混ざり合う
ここではすべてが偽りで、不確かだ
お題《手紙の行方》
風花のように遠くへ流浪する
想いの言ノ葉を探して
何処かにある自分だけの特別な言ノ葉探して
何処へゆけるかわからないけど
何処が終着点かわからないけど
それが幸せで
それが居場所
終わらせるよりいい
旅人でいよう
何処へゆけるか風に身を任せて