椿灯夏

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2/13/2025, 1:09:39 PM

お題《そっと伝えたい》道標の塔、墓標の塔



森の海に眠る高く高く聳え立つ塔

草花が寂しくゆれ

錆びついた風景

凍りついた時間

塔の周りを風が巡る

風は真新しい香りを運び

時間をゆっくり解かしてゆく

いつの時代からあるか誰も知らないが

この塔の意味を誰もが知っている

それは今へと語り継がれる伝承のように


秋の終わり森は終焉を迎える準備へと移り変わる

絵描きの少年は家族のお土産の茶葉と焼き菓子を買い

帰路を急ぐ

いつもならいつも通りなのに、

この日は何故か違ったのだ

何かに誘われるように、

森へと誘われる


奥へ奥へと歩いていくと――塔があった



そして、その塔を無言のまま見つめる杖をつきたたずむ老婆と出会う



《途中書き》

2/12/2025, 12:54:49 PM

お題《未来の記憶》


菫色の瞳は静かに水面を揺らす

それは合図



森の海の向こうに閉ざされた国

永遠の死を告げる死神蝶

邂逅の果てに蘇る

死季が始まり

国は永遠となる

その国は世界を揺るがす厄災となるだろう


先見の少年は《紫季》と名乗り

明日

明後日

遠い遠い先の果て

――あなたの命日も視ることができるという



しかしそれは同時に失うことを意味する


大切な者の、大切な記憶を


紫季は思う


望まれ先見をし

望まぬ真実を識った愚者たちは

彼を《紫の悪魔》だと罵る


この瞳は呪いの根源であり

相手にとっては必然


自分にとっては――――《贖い》であると


命の音がしない冬の森で

ひとり聴く悪夢は




永遠に紡がれる罪の象徴であるのだと


2/12/2025, 9:09:55 AM

お題《ココロ》

カラフルなフルーツドロップの缶

お守りがわりにポケットへ突っ込んで

足早に向かう

春を迎えに

桜並木の道にあるポストで君を初めて見た

丁寧な仕草で手紙を出す姿に心引かれ

その瞬間

ココロに映画が流れた

桜吹雪が舞って

君が僕に気がついて

チューリップのように頬が色づいて

手を振って笑いかける

その瞬間、春が始まったんだ

2/10/2025, 1:36:06 PM

お題《星に願って》


星花が夜空から流れてくる

流星の流れる季節を《流花》と呼び

元星の民であった地上の民は落花と歌われる

星にはなれない星

それでも夜の帳が下りれば祈歌を空へ捧ぐ

いつか故郷に還るのを待ちわびながら

季節は巡り

花は咲き

やがて花は枯れる

それは流花も同様

星の民ではいられなかった彼らが

不変でいられるはずもない


《途中書き》

2/9/2025, 8:51:24 AM

お題《遠く……》


天も地も蒼白に埋もれていく

街も花も色を失って

静寂は聖域のように

(……)

記憶の中でも

僕は動かない

虚ろな瞳で天から降る花を仰いでいる

天にはきらびやかなお城があって

そこには見たこともない美しいお姫様や

魔法使い、吟遊詩人、エデンの騎士

物語に登場する英雄たちが存在している場所があるのだという


病弱な母が聞かせてくれた絵本には夢があふれていた

お金がなくとも

僕は……母とこの絵本があればいい

それだけで生きてゆけるから



それだけで……………………




音がしない



僕の世界から花が消えた


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